Valentine’s Day Kids

 学校生活において、なぜバレンタインデーが異物入りのチョコレートを用いたいじめや憎い相手への報復等に利用されたという話をあまり聞かないのかと知人同士で話題になったことがある。たしかにバレンタインデーやホワイトデーは、差出人不明の贈り物が机や下駄箱に入っていても不信感が真っ先に現れにくい数少ない日である。浮かれて口にした相手が痛い目を見るというのもサディズムが高揚しそうな気がするし、報復の場合でも良い(?)シチュエーションかもしれない。

 しかし、よく考えるまでもなく、小・中学校には「給食」という制度があり、食品への異物混入という嫌がらせを行うのならば、別にバレンタインデーを待つまでもない。チャンスは、ほぼ毎日存在するのだ。実際、やんちゃ者同士のちょっとしたふざけ合いから深刻ないじめにいたるまで、給食に異物を混入させたという話はわりと見聞きする。常套手段といっても良いかもしれない。差出人不明のチョコレートなんかより、相手の油断も突き易い。小・中学生時代の私が自分に配膳されるまでの給食の流れを注意深く観察していたのも無理のない話である。モテる者もモテない者も、バレンタインデーより日々の給食に注意すべきだ。

 また、バレンタインデーのチョコレートは、必ずしも標的が口にするかどうかわからないという点も嫌がらせや報復に用いにくい要因だろう。感激し過ぎて食べずに冷凍保存する者もいるかもしれない(KinKi Kids堂本剛さんが、好きな子から貰ったくまのプーさんのチョコレートを冷凍したと話していたことがあった。しかし、ある日学校から帰ると、父親が酒のつまみにしていたらしい)。やはり、バレンタインチョコを報復等に用いるのはリスクが大きすぎるように思える。

 それでも、思慮の浅いBad Kidsによってバレンタインチョコが悪意の手先になることもあるだろう。だが、仮にそんな事があったとしても、被害者が泣き寝入りする可能性も高そうな気がする。

 バレンタインチョコを貰うこと自体、恥ずかしく感じてしまう者は少なくはないだろう。そのうえで意図的に混入された異物によって痛い目を見たとなれば、よほどの危険物が混入されていない限り、被害を公表することもためらってしまうかもしれない。加害者からすれば「モテないどころか嫌われたり憎まれたりしているくせに、差出人不明のチョコに浮かれて虫やゴミまで食った奴」なわけで、いくら「やる側が悪い」と言っても、自分で自分の尊厳を保つことが困難になりそうである。

 幸い、私は今日にいたるまで、バレンタインにおいて甘い経験も苦い経験もしたことがない。コロナ禍以前より人前で食事すること自体を極力避けている人間なので、食事に毒を盛られて殺される可能性は比較的低いといえそうだ。

GOLDEN☆BEST/国生さゆり SINGLES