秋茄子に嫁を食わすな

 「秋茄子は嫁に食わすな」を「秋茄子に嫁を食わすな」と言い間違えた小学校時代の同級生をたまたま薬局で見かけたのだが、そういえば茄子をモデルにした怪獣を見かけた記憶がない。RPGのモンスターにまで範囲を拡げれば『ドラゴンクエスト7』に初登場したナスビナーラがいるが、ドラクエのモンスターのほとんどがそうであるように、こいつは怪物というよりは「ゆるキャラ」に近い。嫁を食ってしまいそうな(卑猥な意味ではなく)ほど恐ろしい怪物のモデルとして茄子はふさわしくないのだろう(「茄子/妖怪」で検索してみると「茄子婆」という妖怪がヒットしたが、これは茄子のような顔色をした老婆の妖怪であって、妖怪化した茄子というわけではないらしい)。まあ、野菜をモデルにした怪獣自体が多くはないのだろうけれど、なんとなく茄子には、たとえ食品として苦手だったとしても悪者として描くのを躊躇ってしまうような愛嬌があるように思う。

 かつて『ポンキッキーズ』で「なぞのやさい星人あらわる」というミニコーナーがあった。動揺作家かねこひろゆき氏の歌をバックに、着ぐるみの「やさい星人」たちが特に意味もなく街中などに現れるだけのシュールなコーナーである。『ポンキッキーズ』で放送されていたことからも分かるとおり、「星人」と言いつつ彼らもまた「ゆるキャラ」的な存在であり、なかでもナス星人はひときわ間抜けな風貌に感じた(ニンジン星人の右腕だけは、なんだかウルトラマンあたりが戦った怪獣のパーツに見えないこともなかった)。

 スティーヴン・キングの短編『灰色のかたまり』には、腐ったビールを飲んでゼリー状の怪物となった男が登場するが、これに倣って姑に腐敗した茄子を食わされた嫁がルチオ・フルチ的な容貌の怪人となって家族を襲うような映画を制作すれば、さすがの茄子も恐怖度満天となるかもしれない。

 しかし、ナス農家の皆さんに迷惑をかけるわけにもいかないし、そもそも怖いのは茄子ではなく「ルチオ・フルチ的容貌」の方である気もするので、やはり茄子は怪物に向かないと結論づけておこう。

なぞのやさい星人あらわる

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  • 発売日: 2001/01/19
  • メディア: DVD