荒野と化したザナドゥにて父はジャガーと遭遇した。

 デイヴ・ディー・グループが1968年に発表した「キサナドゥーの伝説(The Legend of Xanadu)」。私が初めてタイトルを目にした時は原題が添えられていなかったうえに本格的な英語の学習も始まっていない小学生時代だったため、「キサナドゥー」という言葉が既に知っていたビデオゲームの『ザナドゥ』と同義であると気づいたのは随分後になってからのことだった。

 父はジャガーズによる日本語カバーを先に聴いてしまい、それがあまりにも肌に合わず、オリジナルを知ってから半世紀以上経った今なおこの曲が好きになれずにいるらしい。私が最初に聴いたのは幸いにもオリジナルの方だったので、大好きとまではいかないものの、それなりに心地良く聴くことのできる楽曲である(逆に「好きさ好きさ好きさ(I Love You)」は、カーナビーツの日本語カバーを先に聴いてしまったため、ゾンビーズのオリジナルを知った今なお苦手な曲である。そして、羨ましいことに父はオリジナルを先に聴けている)。

 「Xanaduザナドゥ/キサナドゥー)」は、おおむね幻想的な理想郷といった意味で用いられる語だが、「キサナドゥーの伝説」の歌詞からは幻想的ではあっても理想郷といった風情は感じられない。意味もわからず「Xanadu=理想郷」という知識のみで聴けばそれっぽく聞こえないこともないが、わかったうえで聴けばマカロニ・ウエスタン的とも言えるハイブリッドなメロディとアレンジは荒野を想起させる気もする。はたして、ジャガーズはどこまでオリジナルの世界観を理解していたのだろう。

 1960年代は、ロックやポップスの世界でアルバム文化が盛んになりはじめた頃だった。シングルでは表現し切れなかったものを追及するアーティストが増え、西洋的なものと東洋的なものの融合も多く試みられた。ロックが「芸術」になった時代と言えるのだろう。2005年にNHKで放送された『ロック誕生50年』において、司会を務めた萩原健太氏はこれを「ロックのアンパン化現象」と呼んでいた。ジャガーズはともかく、「キサナドゥーの伝説」もその一端なのだろうと思う。

キサナドゥの伝説

キサナドゥの伝説

  • 発売日: 2012/02/22
  • メディア: MP3 ダウンロード