知っているけれど知らない人たち

 「知り合いのなかにコロナの感染者はまだいない」と公言する者の交友関係とは、どの程度の広さなのだろう。もちろん、ただ事実を述べているだけで、発言の中に「ゆえにコロナウイルスの感染が広がっているというのは嘘である」などという陰謀論的主張が含まれているとは限らない。しかし、特に「感染拡大などたいしたことではない」と暗に主張したがっていそうなタイプの発言者の交友関係というものは、少し詳しくお聞かせ願えませんかと問いたくなる。

 たとえば、私も知人の内にはまだコロナの感染者は出ていない。しかし、私は極端に交友関係の範囲が狭い方であるし、その狭い交友関係の中においても、わざわざ私に感染した旨を伝えるとも思えない。交友関係が狭いがゆえに、周囲に感染者がいないから大丈夫などという短絡的楽観論にも陥りにくくなっている。世界は見えるところまでしかない、でも私に見えているのが世界の全てのはずがない。

 さて、私とは違って自分の交友関係が広いと思っている者、あるいは「広い」とは思っていなくとも「狭くはない」と思っている者に関してだが、まず第一にその交友関係は本当に「広い」もしくは「狭くはない」と言える規模のものなのかという疑問がある。なんとなく、「うちのクラスはキャラが濃い」並みに信憑性の低い主張に思える。だが、それ以上に、仮に「広い」ないし「狭くはない」のだとしても、その範囲内の人間の細かな近況をどれだけ把握できているのかという疑問が強く湧き上がる。素性は知っているが近況は知らない相手でも、どちらかが存在すら忘れ去っていない限り「知り合い」には変わらないだろう。そんな相手のことも含めた「交友関係」であるのなら、そうそう情報が伝わってこなくても不思議ではない。

 私ならば「知り合いに感染者はいない」と陰謀論的主張を含みつつ発言できるような者が知り合いにいたならば、とっくに距離を置いているだろうし、もし自分が感染して自宅療養となった時、そいつから電話がかかってきても面倒なのでわざわざ伝えたりもしないだろう。そもそも、電話にも出ない。もっとも、何度も申しているように極端に交友関係が狭いので、はなからそんな心配はいらないのである。

凹村戦争 (ハヤカワ文庫 JA ニ 2-1)

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  • 作者:西島 大介
  • 発売日: 2010/03/10
  • メディア: 文庫