酷暑と汚水とカイワレ大根

 コロナ禍の収束は、まだ先のことになりそうだが、好きな作家やアーティスト、芸能人などが2度目のワクチン接種を終えた報告も耳にするようになり、個人的な不安材料は少しずつ解消されている。妙な話を信じて頑なにワクチンを拒否するような者も多いなか、そんな連中が撒き散らす飛沫によって応援している方々が重症化してしまうリスクが下がるのだから、ありがたい話である。やむを得ない事情もないのに拒否する連中自身の安全などもう知らん。

 さて、東京五輪開催直前のことだが、元競泳日本代表選手の松田丈志が、リオオリンピックに参加する前に数種類のワクチンを接種したと話していた。2021年の段階で松田氏が元気に話せているのだから、問題のあるワクチンでなかったことは確かであろう。しかし、参加するために数種類のワクチンを接種しなければならないような場所でオリンピックを開催すること自体どうかしていると今更ながらに感じる。東京五輪の中止を訴える声がひろがるなか(私も中止すべきだと考えていた。今でも中止すべきだったと考えている。そして、嘘でも「複雑な思い」を前面に出さず、開催を望んでばかりいたタイプのアスリートに対する憎悪も解消されていない)「リオでさえ開催されたのだから東京も開催されるだろう」という諦念のような意見は、たしかに的を射ていたのかもしれない。

 ところで、1996年のO157騒動の際、当初感染源とされたカイワレ大根の安全性アピールのために菅直人(当時は厚生大臣)がカメラの前で大量のカイワレ大根を食べてみせ、今でも時折話のネタにされてもいるのだが、東京五輪に関して推進する政治家やIOCJOC関係者が、クソ暑いマラソン会場を走ってみせたり、道頓堀レベルといわれたトライアスロン会場で泳いでみせたりしたという話は聞かない。狂牛病騒動の際にも、坂口力厚生大臣が牛肉の安全性アピールを行っていたはずだし(菅直人のカイワレと比べ、役得感もあったが)、1995年のフランス核実験でも政治家がタヒチの海を泳いでみせた映像を観た記憶がある。これらの政治家よりも「根性」がありそうなスポーツ大好き人間たちが、率先してこのようなパフォーマンスをしなかったのは何故なのだろう。

 もちろん、そんなパフォーマンスに効果があるとも思えないけれど、暑さ対策にしてもコロナ対策にしても、効果がないどころか逆効果のような案まで出していた方々が、ある意味「手っ取り早そう」なパフォーマンスに踏み切らなかった理由に関しては、なるべく陰謀論とやらには首を突っ込まないよう気を付けている私も、意地悪くあれこれ邪推してみたくもなったりする。