じーっとみてると盗人に思われちゃうよね

 映画館で拾った財布を係員に渡したものの、その後どうなったのかが分からずじまいで少々不安だという話は以前書いたが、財布に限らず落し物を見つけると、そもそも触れて良いものかどうか悩んでしまう。

 別にコロナ禍だからというわけではなく、持主が他人に触れられることを極度に嫌がる人物だった場合、嫌な思いをさせてしまうだけでなく、下手をすれば無茶苦茶な因縁をつけられたりして警察沙汰になったらどうしようなどと悪い方向への想像力だけが発揮されてしまうからである。目の前に持主がいて、落してしまったことに気づいていない場合などは特に悩みどころだ。自動車が嫌いなのに、常にドライバー手袋を鞄に潜ませているのは、こういった場合への備えでもあるのだが、触れる直前に装着したことを知られれば、それはそれで相手を不快にさせそうである。「てめえ、俺の財布が汚いとでも言うのか!」といった具合に。

 こういった性分なので、落し物を発見してしまうと、すぐには手にとらず、次にどう動くべきかあれこれ考えてしまう。しかし、これはこれで盗むチャンスを窺っているようにも見えるだろう。手をつけた瞬間に正義感の強い誰かが取り押さえにくるかもしれない。だが、私が拾わなければ、本物の盗人が奪い去ってしまう可能性だってある。結局、盗人に思われることを覚悟で拾うはめになるわけだが、悪い事をしているわけではなく、むしろ良い事をしているはずなのに、なぜ私がここまで悩まねばならぬのかと腹立たしい気持ちにもなってきて、なにか大きな見返りが欲しくもなるのだが、今のところ、小さな見返りすら味わえたことがないのだった。


www.youtube.com