『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(3)

 立体駐車場から道路のほうを見下ろすと、今となっては懐かしい風情の電話ボックスがある。マサ君が電話を使っていたアメリカ人らしき女性と話しているのが見え、「君のパパはトランプ大統領の車にいる?」などと訊かれていた。マサ君は「アイムファーザー、ノーグレートマン」と答えた。マサ君の家にはかつて、強風のなかフライトを決行したためにぐにゃりとひん曲がって破れてしまった熱気球が、ゴンドラを引きずった大きな布となってソネザキさんの小屋を巻き込みつつ突っ込んできたことがある。私は脱衣所の窓からその様を見ていたが、母は特に慌てず仕事へ出かけた。その日のことは、23歳のある日、急に飲み会に誘われて出かけたものの席が一人分足りず、結局私だけが参加せずに帰ることになった時、ちょうどコンビニの前を通りかかったあたりで思い出した。子供の頃の記憶が蘇えったせいで気分はさらに沈んでしまい、私はしばらくしゃがみこんだまま動けなくなった。修学旅行の最中、濡れ衣によってキヨミズ先生から全員が説教された時、マサ君がついに切れてしまって、少女漫画で見たらしいキャラクターになり切って挑発しはじめ、キヨミズ先生が翻弄されていたことも思い出せれば爽快だったが、この事は32歳の冬の夢となって現れるまで記憶の底に沈んだままだった。