『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(9)

 列車を改装したらしい図書館を見つけたのは十五になったばかりの頃で、その時はまだチャボやクリハラのような友人もいて、かすかに浮かれて歩くこともあった。鷲別の図書館には植物の本が多いなどと無駄な知識の自慢をしつつ背表紙を素早くチェックしているうちに、管理者の好みを私も好ましく思った。彼女は管理者というわけではなかったが、いつも図書館の仕事を任されていた。タイチが本を手にとり軽く頁をめくりすぐに戻すという行為を繰り返したらしく「本は最後まで読んでからにしてね」と叱られているのを見た。この世界の図書館のマナーだ。私も彼女に嫌われたくないので気をつけることにした。

 映画館で彼女を見かけた時は、険しい顔で葉書を見つめていた。映画がつまらなかったせいだが、葉書をしまった彼女は真っ白で不気味な人形を取り出し、サイケデリックにペイントしはじめた。どこからか「あ、うまいじゃん」という声が聞こえると、彼女は自分の顔を赤い絵の具で染めた。私も頬を爪で裂き顔中に血を拡げたが、誰に見せるわけでもなかった。声の主の顔はわからなかったが、近くのアダルトビデオ屋の前に停車されているジープが奴の車であることはわかっていた。しかし、映画館を出るとすでに誰かがジープの前で猿を死なせて放置していたため、私が手を汚す必要はなかった。ジープの男は私が三十五になる年の冬にも、雨乞い中の老人を轢き殺してしまった。自分や自分にとって大事な人たちが巻き込まれることなく、ジープの男がジープごと消え去ってくれたことを喜んでしまう程度には私も荒んでいたけれど、中磯瀬の古書店の御主人が老人の友人であることをすぐに知らされた。