『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(11)

 スクーターに乗ったノアちゃんが裏口から逃げ出すのを確認し、私は表の塀を乗り越えて市街地に向かった。追手の多くは騒ぐばかりだったので、私は防風林に紛れるだけでよかった。古百合前のお嬢の友人が経営する洋服店がノアちゃんのバイト先で、私は店の奥にノアちゃんの姿を見つけ「服を替えた方が良い」と伝えた。事務室で人形のような店長がねぎらってくれ、「ノアちゃんが心を開くのは珍しい」と言われた。それはキックの方だったが、白状する間もなく店長は仕事に戻った。店の前に停まったバスから教師が降りてきたので、店長たちが妨害に向かった。教師の顔は友川カズキのようだったが、私は友部正人だと認識し「びっこのポーの最後」を大声で歌った。いずれにせよ中身は別人なので配慮する必要もなく、歌い終わる頃にはキックがすべて焼き終えていた。

 キックのおかげでその年の文化祭は無事に開催された。少し油断した私がステージ上の重い幕を強く引きすぎ崩れ落ちてしまったが、すぐ裏で行われていた合唱のリハーサルに怪我人は出なかった。ばれるのではないかと不安だったが、そもそも合唱は中止されるべきものだったので心配は無用だと後に知った。

 ノアちゃんは小学生の頃、合唱の最中に酸欠で気絶したことがあった。人間が密集し過ぎたせいだが、周りの人間の吐息を吸っていると考えただけで気絶できると現在のノアちゃんは語った。それからは教師を殴って気絶させたことはあっても自分が気絶することはなく、健康状態も良さそうだった。

やっと一枚目

やっと一枚目

Amazon