『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(14)

「存在しているだけで支持者の支えになるのが推しというものだ。推しは非常時もただ存在してくれれば良い。慰めや励ましの言葉すら不要だ。それらは時として逆効果にさえなる。ならば推しはただ存在していてくれれば良い。少なくともお前たちがとやかく言うことではない」

 山上は用意した台詞を叫んだ。山上の台詞を用意したのは常田氏で、SNSで絡んでくるアカウント「鈴蛆」を直接殴りたかったのを言葉に換えたものだ。「拳を言葉に」と常田氏は白板に書き殴った。それは言葉をないがしろにしがちな鈴蛆とは対極の思想といえた。無意味なカタカナ変換の多い「鈴蛆」の文章は非常に見苦しかったのだ。

 常田氏にアパートでの出来事を報告した日、テレビでは大リーガーからバットをプレゼントされた少年がボールを買えず貰ったバットで父親を殴り殺したというニュースが報じられた。留学先から西へ10キロ程進んだ町での出来事だったので、きっとサンドイッチショップの御主人も心を痛めただろうと思った。

 留学先では超常現象サークルに参加した。「何か質問は?」と問われ挙手するも無視されかけた。どこからか「日本人にあてろ」という声が聞こえ意見を述べることになったが、怒りに任せたせいで喋れないはずの英語で詰めよりながら意見をまくしたててしまった。しかし、意外と拍手してくれた者もいた。それでも気が収まらなかったので「科学によって超能力以上の奇跡を見せる」と言い、相手を窓から突き出して片手で持ち上げてみせた。