『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(15)

 翌日、中庭を歩いていると拍手をくれた学生が「調子はどう?」と声をかけてきた。「裸で歩いても崇められるようになった」と私は答えた。彼は「神のようだ」と笑った。お嬢と同じくヘンリー・ワイアットのファンであった彼とは、地元警官へのインタビューも共に行った。赤毛の若い警官は「危険な職業なので反射的に撃つ訓練をしている。だから誤って子供を撃ったこともある」と悲しそうに語った。教授からの評価は上々だったが、発表会ではカットせざるを得なかった。

 帰国前、彼の家で怪しげな情報番組を見せてもらった。ある家に関するフェイクドキュメンタリーらしき映画の紹介で、彼らは自宅に固定カメラを設置し自らを撮影していたが、徐々におかしくなる様子が記録されていた。男が女を犬のように玄関につれてきて口に小便をする場面がしばらく忘れられなかった。

 彼の家のリビングには井戸があった。部屋の中心に位置する井戸は深海に通じている。彼の父も交えて、ホームセンターで購入した縄をつなぎあわせた先にカメラを取り付け深海生物を観察した。最初に映った魚は「オールフィッシュ」だと思ったが、画面には「コケエイ」というテロップが表示された。