『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(20)

 お嬢とは病院で出会った。入院中は車椅子生活だったが、階段の前で転倒した看護師に巻き込まれ転落したことがある。左手首に注射器が刺さり、傍にいた医者は看護師を激しく叱責するも、対応を看護師に丸投げして去ろうとした。大声で「待て!」と叫ぶと12歳のお嬢が医者の頭を消火器でかち割っていた。医者はババといい、12歳の私とお嬢は意識のないババ氏の頭蓋骨を外した。脳には2つの螺子があり、眼鏡の螺子に似ていた。お嬢は他人の脳の螺子を外して締め直すのが好きだ。しかし、ババ氏の脳は崩れやすく、締め直す段階になって崩れてしまい少し慌てたものの、適当な作りだったのでどうにかなった。

 旧病棟の裏には外からは見えない空地があり、私たちはよく嫌いな人間の脳を運んできて叩き潰した。何度か踏みつぶしてもみたが、将来的に似たような嫌な感触を味わう予感がしたのですぐにやめた。東側の外壁には、おそらく今でも「いつもの獣、いつも除け者」という私たちの落書きが残っている。

 嫌な予感は黒百合ヶ丘の廃屋を整理した時に的中した。古いラジカセを乗せたテーブルの下にゴキブリのような虫がいて、驚いて踏みつぶすと足の裏にねっとりしたあの感触があった。溶けたキャラメルのような跡が床にこびりつき、嫌な臭いがする。室内を見回すと、南の壁際に同じ虫が3匹見つかった。あの感触は、つい最近も指先に感じたことがある。橋の下にある郵便局のATMが全体的にべたべたしていて、どうやら何かの虫が垂らした砂糖水らしかった。近くの公衆トイレで手を洗って戻ってみると、大学生風の女性がATMにこぼれた砂糖水らしきものをゆっくりと舐めまわしていた。