『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(21)

 大きなフナムシが砂糖水を出すのは知っていた。小学校の修学旅行で見学した海辺の博物館の天井には所々なにやら蠢くものがあり、よく見ると映画で見たエイリアンの幼体に似ていて、時折ぼさっと落下してくる。これが大きなフナムシで、逃げようとするも出口の上に今にも落下しそうな2体を見つけた。出るに出られず困っていると、右脚にもぞもぞと虫が這い上がってくるような感覚があり、慌てて乱暴に手で脚を殴りつけるように払い、思わず声をあげて勢いのまま出口を走り抜けた。後方からは同級生たちの騒ぐ声が聞こえたが、心配すべき者は取り残されていなかったので、そのままバスまで逃げ出した。

 バスの中でタケチ兄ちゃんの七面鳥が冷え切ったことを知らされたおかげで、修学旅行は途中退場することができた。それ以来、砂糖水に触れ過ぎた2人の姿を見ることはなかったが、今となっては名前を思い出すこともできない。おそらく、お嬢と会った病院の大きな扉の向こうであろうとは想像できる。タケチ兄ちゃんの七面鳥は温め直すことができなくなっていたため、私が小学校に復帰できたのは1週間後のことだった。もっとも、慌ただしく動いていたのは大人たちだけで、小学生の私にとってはただの長い休みでしかなかった。タケチ兄ちゃんの七面鳥は去年の3月も含め、それから何度も冷たくなった。