『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(22)

 小学校復帰の前日、授業の進み具合を訊きにタッちゃんを訪ねた。タッちゃんの家の裏にある大きな森では、ちょうどフランク・ザッパがワニをさばいていて、私もあやかることにした。火で炙ったワニの肉は思いのほか美味で、しかし「ワニばかり食べると種なしになる」ときつく忠告された。

 タッちゃんの父親のトラックが火事になったのは翌月のことで、タッちゃんの姉が飼っていた「品川」という名の喋るクマのぬいぐるみが原因だった。30センチほどのクマで、両親には秘密だったらしい。火事は真夜中のことで、気付いたのもお姉さんだけだった。秘密ゆえに両親を起こすこともできなかった。真夜中なので消火器の説明書きを読むこともできず、太めのホースの水程度にしか消火剤が出ず、お姉さんは必死に車内のガスボンベを水で冷やそうとした。なんとか火を消したものの、車外にはびしょ濡れになった黒焦げの品川が倒れていて、お姉さんが名前を叫んで抱え上げても全く反応がなかった。

 タッちゃんのお姉さんは高校生になると、お嬢の家の隣にある寿司屋で働きはじめたが、メニューにハンバーグ寿司が追加されるのを知るとすぐに辞めてしまった。その寿司屋も高校生になったお嬢が「赤身マグロ、返り血付き」と注文した翌週には潰れていた。建物は残っているが、いまだ空き店舗のままだ。空き店舗となった寿司屋の入り口には、誰の仕業かわからないが、閉店直後からこんな内容の貼り紙がある。

「あたし ほんもの フライドポテト あぶらがなくっちゃ くせになる あんたのいってる せいじつなこと ほんもの にせもの たんじゅんなこと にせものだいすき フライドポテト」

 貼り紙は私が初めて行った港町で首を吊ったジェルミンという名のテレビタレントによるものだという噂もあった。彼女と親交のあった音楽家が直後に発表した楽曲「青いJの寂滅」を収録したCDのジャケットには「凡人とは特別な才能がないだけの話であり頭が悪い事とは別である」と小さく記されていた。

Apostrophe'

Apostrophe'

Amazon