『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(26)

 モガリはニエトの孫で、我が家とは少なからず因縁があった。父や伯母が子供の頃、飼っていた猫が行方不明になり、祖父が探すとニエトの家で吊るされているのを発見した。温厚な祖父が他人を殴るのを初めて見たと父は言った。幸い父の猫は無事だったが、喰われたらしい猫の骨が大量に見つかった。喰われた猫たちの呪いなのか、モガリの家では猫にまつわるトラブルが多く、檻から出してはいけない猫をモガリの母が勝手な判断で錠を外してしまい、猫は暴れまわって風呂に飛び込んだ挙句に台所へ向かい、火のついたガスコンロと壁の間で動けなくなった。結局、猫は無事だったが家の焼失の原因となった。

 療養所でのモガリはすっかりおとなしくなっており、遠戚のしがらみから見舞いに行ったマサ君によると、モガリは両目玉ともに取り出して右手に持って歩き回っており、あとで戻すつもりらしいが不安なのだと述べたらしい。イタチ汁のついた手で汚した眼球は洗いつづけただけでは回復しないようだった。父が真夜中に自分の車の前で首のない大男が立っている夢を見たのは、私がニエトについての話を訊いた日のことだったので、マサ君から聞かされたモガリの様子を父に伝えるのはやめておくことにした。首のない大男の肩幅は、あきらかに人間のそれを逸脱していたので、深掘りするのも危険と考えた。首のない大男は父の夢の中にしか現れなかったが、1997年の運動会の後夜祭で右手に丸太、左手に竹槍を持った味方が敵に特攻をしかけた時、急に戻ってきたかと思うと裏切ってこちらを攻撃してきた姿は大男そのもので、ヨソイリさんのトラクターまで追い詰め、耳を切り落としてからゆっくり首を切断した。ナイトウセイイチ氏が姿を消した汚い飲み屋通りで、落ちていた嫌いな人間の耳を踏み潰したのは、東京に来て5年目のことだったが、もちろんそれは丸太と竹槍の男とは無関係の耳である。お嬢は「鼻が落ちていたら拾って冷凍しておく。笑えそう」と言った。実際、お嬢は直後に高額の鼻を拾うことになる。