『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(29)

 公民館の裏には川が流れていて、それは小学校にも続いていた。流れ出た黄色い液体が土地に染み込み、グラウンドも腐らせてくれれば、青年団をはじめとするスポーツファシストたちの身体も期限切れのまま長いこと放置されたチョコレートのようにぼろぼろと崩れていくのではないかと期待していた。しかし、残念ながら思うようにはいかず、まったく無関係のヨソイリさん家の爺さんの頬にあった石鹸の泡らしきものが、悪い腐敗に冒された頬肉の末期症状であることが発覚しただけだった。爺さんは身体のあちこちに石鹸泡のような腐敗の証を患いながらも98歳まで意識を保って生活しつづけた。

 ヨソイリの爺さんが生活を終えた頃には、私も選挙権を得る年齢になっていて、枯れた血管が古い蔦に覆われたようになった公民館で投票が行われた。2度目の投票ではリトマス試験紙共闘隊を名乗る後輩たちが拳銃を乱射しはじめたが、どうやら新品の靴でない者を狙って撃っているように思えた。撃たれて困るような者が巻き添えになる心配はなさそうだったが、RMGのような対抗勢力がないため、共闘隊は一方的に撃ちまくっていた。念の為、私たちもなるべく姿勢を低くし、古い靴の者たちもどさくさに紛れようとする。経験の浅い共闘隊たちには有効な手段で、彼らの名が他所に届くことはなかった。

 久しぶりに会ったヤスヒロが「朝ドラに大滝詠一が役者として出演するらしいよ」と教えてくれた。また、明治小のメグロの店で行われたジャイアントコーンの早食い大会で新記録が出たことも伝えられたが、ヤスヒロは私がメグロを知らないことに気づいていないようで、地元の閉鎖性を痛感させられた。すっかり変わってしまった幼稚園では、ちょうど焼却炉に誤って転落した新任の先生がそのまま焼かれてしまっていた。ヤスヒロと共に眺めていると、別の先生が燃えカスを掘り起しはじめ、やがて中から園児には直視できないような先生の遺体がモザイクに包まれて現れた。誰かの大泣きする声が聞こえた。