『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(30)

 すでに小学校は廃校になっていて、かつての青年団の連中は誰も綺麗な靴など履いていない。共闘隊たちもわざわざ狙い撃ちする必要を感じていないようで、呆けた顔が品揃えの悪い下磯瀬の小さなスーパーの前に棒立ちしているだけだった。数少ない子供たちは新商品のスナック菓子を手に笑っていた。笑顔の子供のうちの一人が「朝ドラのナレーション、つぶやきシローがやるんだって」と言っているのを聞き、ヤスヒロは大滝詠一の間違いだと笑ったが、後に子供たちの正しさが証明されることになった。罰としてヤスヒロはナゴヤ一家の芋を一箱買うはめになり、汚れた土壌の栄養に舌を痺れさせていた。

 その日の夜に部屋で投票結果と人々の反応を調べていると、なにやら外が騒がしく、姿を見られぬよう腰をかがめながら窓に近づくと、聞き覚えのない声が「あんたのカミサマが撃たれる姿はジョージ・ウォーレスそっくりだった!」と叫んでいた。共闘隊が撃ち損ねたうちの誰かなのだろうが迷惑極まりない。イヤホンから最大近い音量でボブ・ディランを流し、外の騒がしさから逃れていたが、この行為もまた覗き見されでもしたら誤解を招くはずで、実家の壁の厚さだけには感謝しておこうと思った。不安を和らげる頓服薬を飲み、枕元にはレモンを置いて眠ろうとしたものの、右顎がきしんで寝付けなくなった。

 顎のきしみが始まったのは高校の修学旅行からで、騒がしいテーマパークに5分と居れず、すぐに一人バスへ戻って時間を潰していたのだが、さすがに睡魔と闘い続けるはめになってしまい、堪えつつも耐え切れず不完全な準備のままに生じたあくびによって、しばらく耳の付け根を外したままの暮らしになった。前年はマンモスのぬいぐるみを万引きして強制退去となった男子がいたらしいが、どんな形であれ旅行から抜け出すことができた名も顔も知らぬ上級生を羨ましくさえ思った。地元の空港で悪名高い教頭が慌てて止めに入るほど激しく父親から殴られていたと聞くが、彼も私と同じ理由だったなら涙を流せる。