『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(41)

 石畳氏によってK氏へと伝わった彼女の意思は、すぐに山上らをも巻き込み、「“デーゲームファシスト”の横暴で死ぬことになるのなら、せめて相討ちすべき」という彼らの叫びは大量の落花生たちを動員し、まるで『爆裂都市』のような鉄屑と豚の臓物が飛び交う狂乱の事態を招くことになった。後に「落花生カーニバル」と呼ばれた騒動だが、凶暴化した落花生たちは、ぬかりなくヘルメットやガスマスクで防御しており、路上に流れた出た体液は全て表の人間のものだった。豚も適切に血抜きされていて、必要以上に街を汚すこともなかったが、その頃私は遠方で詩人の雉間美怜と共に息を潜めていた。

 「ばれるとまずい嘘をついておけば相手と関係を深めずに済みます。予防です。これは予防です」そう語る雉間美怜は、野菜と果物だけを食べて“推し”の無事を祈り続けていた。主義ではなく、肉の脂を受け付けない身体だった。髪と眉と睫以外の体毛を忌避し、血塗れになってもそれらを取り除き続けた。ゆえに雉間の身体には無数の傷があり、ためらい傷と間違う者もいたが、すべては雉間が自らの体毛と格闘した結果である。映画作家のタズネル氏が雉間の傷を撮影しようと試みたが、雉間はそれを頑なに拒否した。ただし、酒の入っていない状態のタズネル氏のことは嫌っていない様子だった。