『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(44)

 溶剤の精度を上げるために必要な薬草を採取するため、山上と共にコスタリカへ向かう途中、人生初のホーボー体験をした。「素敵な景色ですね、ハーパース」と山上が言い、ハーパースとは何か尋ねると「いませんでしたか、そんな奴?」という返事。記憶を探っても、そんな名前の知り合いは思い当たらない。「いなかったよ、そんな奴」と私が答えると、「じゃあ、あれをハーパースだとしましょう」と言って山上が指した先には、線路の脇に転がる誰かの片足があった。「なるほど、これはビザールだ」気分も良かったので、自然と『59番街橋の歌』の口笛を吹いていた。誰かの足も人形アニメの動きで踊り出した。

 薬草の群生する土地に住む人々は、みな人形アニメのような動き方をしていて、あの片足も土地の人間のものだと推察できた。重力も関節も関係なくなり、ぐねぐねと空へ舞いあがっていったことを墓穴の前の衣装ダンスに身を潜めた男に伝えると、嬉しそうに穴に横たわったので、礼儀として桜桃を供えた。桜桃は駅の地下で大道芸を披露していた手袋からもらったもので、二食分の硬貨を投げ入れたことへのお礼だった。「すぐに必要になる」と手袋は伝えてきた。手袋なので、当然手話である。私に手話の知識はなかったはずだが、手袋の伝えたいことは理解できたし、それを不思議なことだとも思わなかった。