『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(47)

 猛暑の中、野球部の全校応援に駆り出され、すっかりぬるま湯と化した紅茶で必死に水分補給をしていた時、唐突に響いた共闘隊の銃声は、どんな歓声よりも私の心を奮わせ、球場に放たれた警備隊の放水を浴びに走るついでに、混乱のどさくさに紛れてサッカー部顧問の両目に誰かの落した鍵を突き刺した。全てをサッカーで例えられる程度の人生しか送ってこなかったらしい顧問はオモイヅカという名で、自分の両目が何によって潰されたのかも理解できずにのたうっていたが、いつもはおとなしいイルカのような顔のハシモトアヤコさんがオモイヅカの眼球くずを抉り取っていつものような笑顔を見せてくれた。共闘隊のアダム・イデオロギーは、かつて私が教えたローリング・ストーンズの「悪魔を憐れむ歌」を大音量で流し、球児と関係者たちを寒水で冷却させ、ハシモトアヤコさんも幸福な結末を迎えたアンヌ・ヴィアゼムスキーのように見えた。建設現場からキックもやって来て、快く残骸を撤去してくれた。

 後日、キックと共に廃棄物置場を消毒しに行くと、対戦校の教員らしき白髪頭が球場の瓦礫に紛れて転がっていた。石灰を振りかけようとすると、耳の穴から身体を伸ばせば拳大はあろうかという羽蟲が這い出てきて、髄液や脂で湿った羽を乾かそうとしているのか、日なたを求めて地面をさまよいはじめた。気持ちの良い蟲ではなかったが、なんとなく責任を感じて無事を見守っていると、サッカー部のタイナカから携帯電話に感謝を伝えるメールが届き、一瞬なんのことだろうと思ったが、すぐにオモイヅカの件だと気づき、球技大会から抜け出す際には彼に協力してもらおうと考え、なるべく丁寧な文で返信した。その間に羽蟲は無理をすれば飛べる程度に身体を乾かせ、虫にさほどの抵抗がない者なら気にとめないほどの姿に戻っていたので、虫を羽蟲にさせていたのは白髪頭の脂のせいだと考えられた。石灰は多めに振りかけておかないと、脂が地面に染み込み、未来の子供たちの遊び場は腐敗した土地になるだろう。