『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(53)

 私が高校に入り、ある程度自由に出歩くことが容易になっても、地元には既に喫茶店がほとんどなくなっていたので、一人氷を噛んで過去ばかり思いだし、人前での落涙を必死に耐える心配はなかった。代わりに学生服の暑苦しさで頻繁に鼻血が出た。恥部と捉えられがちな部分の出血だが、誤魔化す術もない。人前での鼻血と頼れる者がいない状態での忘れ物は、学生生活を終えてからも頻繁に夢に見るほど怯えていたようで、強迫性障害の引き金とも考えたが、保育園の連絡帳からも兆候を察することができた。タケチ兄ちゃんのこともありながら違法な薬物に手を出さなかったのは奇跡的だと医者は言った。

 はじめて丘の上の病院を受診する前日、地区会館の屋根の上から恐ろしいほど肥満体の女が、こちら側に向かって突進してくる悪夢によって飛び起き、真夜中にシャワーを浴びなければならないほどの冷や汗をかいた。悪夢にうなされやすいことは伝えたが、その内容までは話す気になれないままである。見知らぬ墓石の前で両親に「もう死んじゃうの?」と繰り返し尋ね続ける記憶も、そもそもが夢か現実か曖昧になるほど幼い頃のものなので、今となっては確認しようもない。自宅の階段から転げ落ちて、仰向けになったまま、わけもわからず階上を眺めていた記憶だけは親に確認することができた。教育テレビで放送された歌番組でのメリーゴーランドの映像がなぜか不気味に感じ、見たがる従兄弟を突き放して部屋から逃げ出したのも同じ頃で、そもそも遊園地には、ある種の子供を不安に陥れる力があるらしいと後に耳にしたが、自分を含む「ある種の子供」が何なのかを知ることはできずにいる。

ひきがたり・ものがたりVol.1 蜂雀