腹が減っては薬が飲めぬ

 「空腹時の服用を避ける」という注意書きのある医薬品は多い。新型コロナワクチンの副反応に備えて用意しておいた頭痛薬と解熱剤にも同様の注意書きがあり、これまでは三度の食事からさほど時間の経っていない頃に症状が現れた問題なかったのだが、先日の4度目の接種後は厄介なことに深夜に発熱してしまった。

 説明書に対して親や教師や上司よりも従順な私は、真夜中に食いたくもない羊羹を悪寒に苛まれながら齧り、ただでさえ食が細い方なのに小さな羊羹一つでは薬の服用の為には不充分ではと考え、安価のゼリー飲料を無理して流し込んだりもした。ダイエット中の人間からすれば腹立たしいほどに贅沢な行為だろうが、ちっとも嬉しくない。早く楽になりたいのに、食った直後というのも良くはなかろうと思い、具合の悪さゆえに全く休んだ気にならない食休みを挟み、水よりもなんとなく優しそうな白湯を用意して、ようやく薬を服用したのだった。

 そうまでしながら、副反応自体が治まった今なお胃腸の調子だけは芳しくないのは悔しい気もする。しかし、説明書様に反抗して、空腹状態の胃に冷水で薬を流し込んだりすれば、きっと今頃はイソジンをがぶ呑みしたような苦しみを味わっているはずである。「そこまでのことにはならん」と言われても、たぶん精神的なあれこれで、結局そこまでのことになる。良い予感は滅多に当たらないが、悪い予感だけは嫌になるほど当たるのである。