知らんうち、こんなとこ切れてる!

 3歳の頃、墓参りへ出かけるため母親の車に乗った直後、右手人差し指の爪の間から血が出てきた。たいした量ではなかったうえ、母が絆創膏を持ち歩いていた為、すぐに応急処置もできたのだが、どうしても出血の原因を思い出すことができない。いや、思い出せないというより、その当時からはっきりとした原因がわからなかった。

 紙かなにかで知らないうちに切り傷が出来たのかもしれないし、棘的なものが軽く刺さったのかもしれない。病弱ゆえ既に病院慣れ・注射慣れ状態で、外傷による多少の出血ではさほど慌てない3歳児だったこともあり、原因究明に躍起になることもなかった。30年以上経過した今も、右手人差し指に後遺症らしきものは見当たらず、未解決のまま寿命を迎えても一向に構わない話ではある。

 しかし、この一件によって私は「傷は知らないうちに出来ている」ということを学習し、ハンカチやポケットティッシュよりも絆創膏やガーゼの携帯を優先するようになった。小学校の低学年時代には、朝のHRで全員がハンカチとポケットティッシュの所持を調べられていたが、たとえその二つを失念したところで、私の鞄やポケットには、もっと頼りになる仲間が控えていたのである。

 さらなる成長に従って、ウェットティッシュや消毒薬が仲間になる。衛生的とは言えない教室での飲食を強要されても、私がどうにか飢えることなく義務教育を終えることができたのは、こういった物言わぬ仲間たちのおかげである。物言う仲間たちは、そもそも仲間と呼んで良かったのか今となっては疑わしい。物言う仲間モドキたちのせいで、物言わぬ仲間たちの力を借りることになった場面も幾度となくあった。

 物言わぬ仲間たちは時として私の懐事情を逼迫させもしたが、彼らがあまりに魅力的だったため、私は彼らの姿が減るのを恐れていた。その恐怖心は、後に新型コロナウイルスの流行が始まった直後の市販医療品不足を私があっさり乗り越えた要因となった。ありがとう恐怖心。ありがとう出血。

 さて、絆創膏の予備が規定量を下回りそうなので、そろそろ買い出しに出かけることにしよう。