猫、帰る

 先日、何者かと激しく争っているらしき鳴き声を響かせて以来、消息不明となっていた我が家近辺をテリトリーとしている尻尾の短い猫だが、本日無事を確認することができた。朝方、怪我をしている様子もなく、これまでのように庭を悠然と横切る姿を目にし、多少は生まれていた愛着と「死骸を片付ける必要はなさそうだ」という現実的な問題それぞれに対する安堵を感じたのだった。

 猫にしてみれば、敷地内で勝手に一夜を明かしたことくらいはあるかもしれないが、餌を与えたことはないので、一宿一飯の恩義を感じる必要もなく、死骸処理の面倒をかけようがどうしようが構わないはずだが、ひょっとすれば面倒な何者かを撃退してくれた可能性もあるわけで、念の為にも今後はこれまでより敬意を持って眺めようと思う。

 それにしても、タンオ氏(「短尾」と書いてタンオと勝手に名付けてみた)が闘っていた相手は何者なのだろう。やはり狐か、あるいは他の野良猫か。我が家の庭には、リスもたまに見かけるが、カラスがリスを襲う姿は見たことがあるものの、猫がリスを襲う姿は見たことがない。それに、タンオ氏の争う声を聞いた日から、無事な姿を確認した朝までの間にリスの姿も目撃できている。そもそも、仮にリスを襲ったとしても、あれほど激しい鳴き声はあげない気がする。やはり、もっと厄介な相手だったように思う。

 タンオ氏は、人間の目から見れば「ずんぐり」といった風情だが、同じくらいの大きさの動物からすれば「ガタイが良い」と表現すべきタイプなのかもしれない。松方弘樹や梅宮辰夫といったところだろうか。我が家の敷地を生活圏内にしているというだけで一宿一飯の恩義を感じているのだとすれば、なかなかの任侠猫である。いずれ盃を交わす日が来るのかもしれない。相手は猫なので、酒を飲まない私でも交わせる盃の可能性もあるだろう。一応、作法くらいは勉強しておくこととする。