悪魔の発明

 染み汚れ対策を発端として開発されたという「無色透明の醤油」を知ったのだが、世の中に対して過剰な警戒心を持つ私には凶器としか思えない。

 めんつゆと麦茶を間違えるというのは定番ギャグ化していて、実際にそんな人が存在したのかすら怪しい気もするのだが、無色透明の醤油などというものは、見た目として水と変わらないわけで、嫌いな人間に致死量の醤油を飲ませることが容易になるのである。外食自体が苦手なうえ、食事に誘われることがそもそもない私には無縁の心配と思われるかもしれないが、私に致死量の醤油を飲ませるためであれば、嬉々として食事に誘ってくる者も現れる危険性がある。早急に、調理師免許を持つ者以外が手にすることを禁止すべきではなかろうか。

 はぐれ者の余計なお世話と考えてはいけない。たしかに、食事に誘われることの多い者は、友達の多い者でもあるだろう。しかし、それゆえに恨まれる危険性だって高くなるはずだ。酒などを注がれて判断力を奪われてしまえば、容易く致死量の透明醤油を一気飲みさせられてしまうだろう。同居人からジワジワと過剰な塩分摂取で嬲り殺される可能性だってある。

 もちろん、必要以上に騒ぎ立てて開発者の苦労を踏みにじりたいわけではないので、禁止云々は冗談であり過言であると念の為記しておくが、不安を感じる者たちは、これまで以上に透明な液体に対して警戒し、口にするものに過剰な塩分が注がれていないか味覚を研ぎ澄ませておくべきである。