God Only Knows?

 小学3年のとある日、夕食を終えた午後6時過頃に自宅の電話が鳴り、同級生のロープス君(仮名)が家に帰って来ていないという連絡があった。全校児童30数名ほどの我が母校では、仲の良し悪しに限らず、全児童どころか大半の保護者の顔と名前も一致している状態だったこともあり、ほとんどの関係者が周辺を捜索に出かけた。しかし、程なくしてロープス君はひょっこり帰宅し、どうやらまだ陽が長い時期だったせいか、一人でその辺の林やら川やらを遊び歩いているうちに遅くなってしまっただけだったことが判明した。怪我もなく、私の記憶する限りでは、翌日の学校でロープス君が数名から「面倒かけやがって」と吊し上げられた程度のトラブルにしか発展しなかった。中年期も目前となった現在のロープス君も、しばらく顔を合わせてはいないが、元気に暮らしているらしい。

 このように無事に解決したロープス君失踪騒動だったが、当時の捜索にも参加していた一級上のサイモン君(仮名)が大学入学後しばらくして、なんとなくこの騒動を大学の友人たちの前で話したところ、そのうちの一人(仮名・ゆうぼう氏)は「きっと土地に神様が居なかったから助かったんだ」という感想を口にしたという。サイモン君は、なんとなく気味悪く思い、ゆうぼう氏とは距離をとるようになったらしい。

 ゆうぼう氏の発言が、民俗学かなにかを齧っていたゆえのものだったのか、あるいは事実はどうあれ自分は超常的な力があると信じているタイプだったのか、はたまた妙な宗教にハマっていたのか、あれこれ推測することはできるものの、真意など私にわかるはずもない。わかるのは、自分がサイモン君の立場なら、同じようにゆうぼう氏とは距離をとるであろうということくらいだ。

 たしかに北海道は開拓後の歴史が比較的浅いためか、「言い伝え」と呼べるものの大半はアイヌの伝説由来である。アイヌ文化を敬うことに抵抗など無論ないが、元来はよそ者だった自分たちが中途半端な知識で語るのもおこがましい気がする。結局、私の住む地域でも、こと神様にまつわるような怪談の根付いたような場所など聞いたことはなかった。

 しかし、今なお生贄を欲するような神様に居られるのも困るが、会って間もない相手に自分の住む土地を「神様が居ない」と断定されるのも、なんだか気分の良いものではないのだった。