アンクル・ジャムからのエアメール、あるいはミスター・ジャムと愛犬チーズ

「中にジャムが入ってるからジャムおじさんっていうんじゃないの?」

 保育園の頃、一つ年上のK君が友達同士の会話の中で発した言葉である。この時点で既に、はぐれ者の気配を醸し出していた私は、件の会話における「友達の輪」には加わっていなかったものの、会話内容は聞こえてきた。総園児数20数名ほどの僻地保育園だったため、まだボリューム調整機能を駆使できていない子供たちの会話など下手をすれば壁を二、三隔てていても筒抜けである。それに、この時の私は友達の輪に加入できていないだけで、K君と同じ部屋にいた。ゆえに友達ではなくとも、K君たちが「ジャムおじさんは、なぜジャムおじさんという名前なのか」という話をしていることは理解できたのだ。

 ジャムおじさん。言わずもがな『アンパンマン』に登場する、あのジャムおじさんである。『アンパンマン』に登場するキャラクターは皆、アンパンマンワールドに生きる妖精のようなものであると、たしか原作者であるやなせたかし先生が仰っていたはずで、いわゆる「ハイ・ファンタジー」だと考えて良いのだろう。愛犬チーズも、あくまでアンパンマンワールドに存在する犬であって、はぐれ者な私の生きる現実世界の犬(柴犬やチワワやセントバーナードなど)ではないということだ(前脚を完全に両腕として使いこなしている時点で当然ではあるけれど)。それゆえ、ジャムおじさんに関しても、その存在を現実世界に倣って考えてはいけないのだろうが、だからといって中身がジャムであるとは考えにくい。40歳目前となった現在のK君も、いくら私が今も昔も友達ではないからといって、これには同意してくれるだろう。

 さて、ジャムおじさんがなぜジャムおじさんかという話だ。発端の会話は幼児たちの素朴な疑問であるわけで、「あなたはどうしてロミオなの」といった存在論的問いではないだろう。つまり、なぜ「ジャムおじさん」と呼ばれているのかという、単純な名前の由来に対する疑問である。しかし、そもそも「ジャムおじさん」は正式な名前なのだろうか。由来はともかく、「バタコさん」の名前が「バタコ」であることは容易に察することができるが、「ジャムおじさん」の名前は「ジャム」なのだろうか。現実世界で「ジャム」、つまり果実等を砂糖や蜂蜜で加熱した保存食品の名称が人間に与えられることは、もちろんゼロではないだろうが、愛称の場合を除いて、多い話ではないと思う。もちろん、「ばいきんまん」や「かまめしどん」といったキャラクターの存在するアンパンマンワールドにおいては、全く不自然なことではないだろうが、「なんちゃっておじさん」の名前が「なんちゃって」ではないように、「ジャム」が正式な名前である根拠は示されていないはずである。人間性と食品名としてのジャムに密接な関係があるがゆえの愛称、あるいはフルネームが略すと「ジャム」になるような名前ということも考えられる。

 もっとも、これは「バタコさん」にも言えることで、フルネームが「バタリーナ・コールドマン」だったりするのかもしれない。いずれにしても、公式設定を念入りに調べれば分かるのかもしれないが、現在に至るまでの私の「アンパンマン」に関する知識だけでは、このようにあれこれ想像するより他ない。そもそも、アンパンマンワールドの住人たちに対し、現実世界の氏名に関する感覚や制度を基に考察することが野暮なのだろうけれど。

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