強風記

 私の棲息地では、このところ、毎日のように強風が襲ってきており、資料庫として使っている離れは、なにぶん古い建物ゆえ、隙間があるのか、玄関には近所の畑から強風に乗って舞い込んできた砂埃が溜まってしまっていて、他人より少し潔癖気味な私を苛々させている。資料庫の玄関には書物も置いてあり、これもまた砂埃の犠牲になっているのだが、玄関に置いてある書物は割とどうでもよい部類の本たちなので、その点はあまり気にしていない。床や壁と同じ態度で掃除している。

 困るのは洗濯物で、いくら空が青くとも屋外に干してしまうと砂埃にまみれてしまい、洗濯の意味がなくなる。砂埃だけでなく、木の枝や葉、酷い時には蝶や蛾の幼虫らしきものまで飛んでくる。知らずに着用し、蠢く細い紐状の生き物が鼻やら耳やらに侵入してきたら、などと考えると、穴という穴に熱湯を流し込みたくなる衝動に駆られるので、仕方なく衣類は陽当りの良い室内に干している。

 このような気候状況なので、当然、家の屋根も薄汚れてしまっている。いずれ、ベランダを乗り越え、水と洗剤とブラシを駆使してぴかぴかにしてやろうと思っているのだが、風がおさまってくれないことには、洗濯同様意味がないし、なにより危険度も高い。雪おろしの最中に転落して怪我、ひどい時には命を落とすという事例は、北海道ではよく聞く話だが、雪のない屋根を清掃中に転落というのは、なんだか間抜け度だけが強調されるような気がしてい、ただでさえ評判の芳しくない私としては、避けたい事態である。

 そもそも、ちょっと砂埃にまみれたからといって、玄関ならともかく、屋根までしっかり清掃しようと考える人間は、どのくらい存在するのだろうと考えると、それほど存在していないとも思われるので、放っておいた方が身の為なのかもしれない。しかし、気になるものは気になる。なら、どうにかした方が精神衛生上は良いはずなので、とりあえず、現在私の死因として最も可能性が高いのは「屋根の清掃中の転落死」であるとだけ記しておこうと思う。