自己紹介やら目次やら

 投稿日付を未来に設定して常にブログのトップに表示されるようにする、というのは説明するまでもないことのような気もしていたのだけれど、わざわざコメントで突っ込みを入れている人を見かけたこともあるので、念のため、先にその旨を書き記しておきます。(随時編集)

 

美月雨竜(みづき うりゅう)

 1986年、北海道十勝地方生まれ。永遠の求職者。心に大風邪をひいて静養の日々。

 高校卒業後は札幌、そして神奈川で色々と勉強に励むも、湿度や人の群れに耐えられず、また十勝に帰ってきた(逃げてきたとも言う)。

 ザ・ビートルズ『マジカル・ミステリー・ツアー』、竹村延和『ソングブック』、DOOPEES『DOOPEE TIME』、デレク・ジャーマン『ザ・ラスト・オブ・イングランド』、『水曜どうでしょう』、さまぁ~ず、これらを定期的に摂取しないと生命が維持できない。

 ブログは基本的に毎週日曜と水曜に更新しています。

 略歴:総合学園ヒューマンアカデミー札幌校 ゲームカレッジ ゲームプランナー専攻

 日本映画学校(現・日本映画大学) 21期脚本ゼミ

 Twitter:@miumizuki

 

 

 

リスト系記事の目次

 

芸術系の道に進みたい人のための必見・必読・必聴作品リスト

 様々な人・媒体で紹介された各ジャンルの必見・必読・必聴作品のリスト(私が個人的に選んだ作品も含む)。私自身がこれから観たり聴いたり読んだりするためのメモ代わりである。ようするに、備忘録。

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20130814/1376392193

 

「作家=俳優」映画リスト(海外編)

 異業種監督の中でも、俳優またはコメディアン、ミュージシャンなど演じることを生業とする人たちの監督作リスト。本業は映画作家だが、特に役者としての活躍も多い作家も加えてある(誕生順)。

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20131027/1382876094

「作家=俳優」映画リスト(国内編)

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20131023/1382485847

 

映画についての映画リスト

 映画についての映画のリスト。
 映画がテーマのものや、劇中で映画に関することが描かれていたりするもの、あるいは主要人物が映画に関連していたりするもの。

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20131009/1381271421

 

アーティスト映画リスト

 実在のアーティストを描いた映画(ドキュメンタリー含む)のリスト。

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20130929/1388903697

 

暇な知人たちと共に選んだ名曲ベスト500(海外編)

 暇で奇特な知人たちと共に集計した名曲ベスト。好み、後世への影響、偉大さ、完成度、ヘンテコ度、普及率など様々な要素を踏まえて、あくまで私の狭い交友関係の中でも特に偏った十数名によって選ばれた500曲です。

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20130310/1362871182

暇な知人たちと共に選んだ名曲ベスト500(国内編)

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20130313/1362872307

 

暇な美月雨竜氏が個人的に選んだ音楽アルバム名盤ベスト500(海外編)

 最初に掲載したのは2013年の7月ですが、後に発表された作品や知った作品、あるいは気分の変化によって加えたり上下させたりしたくなったものは随時、加筆・修正しています。

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20130721/1374406859

暇な美月雨竜氏が個人的に選んだ音楽アルバム名盤ベスト500(国内編)

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20130717/1374018287

 

好きな映画

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20120427/1335514963

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20120427/1335514916

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20120427/1335514850

 

挨拶代わりの小話

https://uryuu1969.hatenablog.com/entry/20000101/1490921224

 

 

マジカル・ミステリー・ツアー [Blu-ray]

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ソングブック

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DOOPEE TIME

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ラスト・オブ・イングランド [DVD]

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さまぁ~ずライブ11 通常版 [DVD]
 

『空にかたつむりを見たかい?』 第40回

 上野が去った後も、しばらくカメラを向けていたが、かたつむりが飛び立つ気配はなかった。あの日と違うことと言えば、なんだろう? やっぱり国島先生が撒いた、あのナントカ菌がいけなかったのだろうか。上野もクワガタは見つけられなかったようだし。いや、かたつむりに関しては、結局僕の見間違いか。あるいはキツネに化かされたか……。

「あゆむん、何を見てるの?」

 急に声をかけられ、振り返ると、ナスレディンを連れた塔子さんが立っていた。

「そちらこそ、なんでナスレディンを?」

「ダイちゃんがウチのほうまで散歩させに来てね。でも、ナスレディン、ダイちゃんよりあたしの方が好きみたいだから、今日の散歩は交代してやったの」

「ダイチは?」

「洋ちゃんの仕事の手伝いしてる」

「そうですか……」

 そういえば、ナスレディンはマリサにも随分となついている。神を見たい、美人好きのオス犬か。ああ、でもユイは迷惑がられていたな。いや、ユイは美人というタイプではないか。

「で、あゆむんは何を見てるの?」

「ああ、かたつむりを……」

「かたつむり、飛んだ?」

「いえ……って、え?」

「屋根まで飛んだ?」

「いや……」

「飛ばない?」

 なぜ塔子さんの口から「かたつむり」と「飛ぶ」という言葉が繋がって出てくるのだろう。

「……誰に聞いたんですか? マリサですか?」

「あゆむんが、空飛ぶかたつむりを見たことがあるって話はマリりんから聞いた。あ、マリりんのこと責めないであげてね。あたしがマリりんの心に入り込んだだけだから」

 マリりんの心に入り込むってなんだろう。いや、単に懐柔したということなのだろうけれど、塔子さんが言うと、なにか文字通り、妖怪じみた能力を使ったようにさえ思えてくる。

「でも、かたつむりが飛ぶっていう話自体は、もっと前から知ってたよ」

「もっと前って……」

「初歩的なことだよ、ライアル・ワトソン君」

 そういえば、かの有名なニューエイジサイエンティストであるライアル・ワトソンの『百匹目の猿』は、本人も創作であることを認めていたのだっけな……。

 僕は少し混乱していて、偉大なるシャーロック・ホームズの友人ではなく、そんな嘘つき学者さんの名前で呼ばれたことの意味はなんだろう、なんて考えはじめてしまっていた。

『空にかたつむりを見たかい?』 第39回

知悦部小学校PTA会長 上野信道   ――知悦部地区小学校と地域を語る

 

 昔いたな。蕎麦アレルギーの子に、平気だって言って食わせてた教師が。給食のおばさんが、あれはかわいそうだったって言ってた。そいつのアレルギーが、軽度だったのが余計不幸だったのかもな。水ぶくれみたいなのが顔にできて痛々しいんだけど、分からない奴にとっちゃ、ニキビが悪化しただけのように見えたんだろう。実際、俺の知り合いにも、蕎麦アレルギーだったんだが、駅の立ち食いうどんを蕎麦と同じ鍋で茹でられてることを知らずに食っちまった奴がいてな。結構、ひどいことになってたんだけど、自分でも気づかないで、しばらく市販のニキビ治療薬を塗り続けてたらしい。もっと症状が重かったら死んでただろうな。まあ、さっき言った教師は、知悦部にいる間、ずっとそんな調子だったんだが、松永先生が来て助かった。同じ体育会系の先生で、すごい熱い人ではあったけど、そういう常識のなさっていうか、根性論の押し付けみたいなことはなかった。

 

○○○   ○○○   ○○○

 

 夏休みも終わり間近となった、ある晴れた日。一人でカメラを持ち、空飛ぶかたつむりの川と防風林の近くを撮影していると、偶然、上野に会った。

 上野は、なにやら防風林の中でうろうろしている。どうやら、木を見て歩いているようだった。

「上野?」

 声をかけると、上野は少し疲れたような顔で振り向いた。

「ああ、アユムか。何してんだよ」

「君が何をしてるかの方が気になる」

「先に俺が訊いたんだから、答えろよ」

 疲れているせいだろうか、あまり機嫌は良くないらしい。

「閉校式で流す映像の撮影だよ。ほら、楠本校長に頼まれたやつ。この辺の景色を資料映像にと思って」

 空飛ぶかたつむりを撮影しようとしているなんて、口が裂けても言えない。

「ああ……例のな。そういや、おとといオヤジにもインタビューしてたよな」

「堀田氏にはインタビューするつもりはないから安心しな」

 僕がそう言ってやると、上野はようやく少し笑顔を見せた。上野も堀田氏のことは苦手なのだ。基本的に僕たちは、鬱陶しい相手とは関わろうとしない。

「で、君は何してんの?」

「クワガタ」

 上野は僕から視線を外し、再び木を見ながら答えた。

「クワガタ? 今になって?」

「探せばまだいる」

「いや、そういう意味じゃなくて」

 小学生の頃、たしかに何人かがクワガタ捕りに熱中していた。上野もそのうちの一人ではあったと思う。でも、中学に入ってからもクワガタを追っているという奴は知らない。「ガキくさいことやってんな」という言葉が出そうになったが、ぐっと我慢した。バスケットボール同様、それだけ好きということなのかもしれない。

だが、僕のそんな思いを察したわけでもないだろうけれど、上野は否定の言葉を口にした。

「別に好きでやってるわけじゃねえ」

「ちょっと前までは、好きだったんじゃないか?」

「いや……まあ、別にクワガタが嫌いなわけじゃないな。……ああ、やっぱここじゃダメか」

 上野はそう言うと、こちらへ歩いてきた。苦笑いというか、照れ笑いというか、そんな感じではあったけれど、少なくとも僕に対して怒っているわけではないようだ。

「気をつけな。川に落ちたら悲惨だぞ」

「これ、川か? 川って言っていいのか?」

「昔は、ちゃんと川だったんだ」

「信じられねえよな」

 道路まで上がってきた上野は、シャツやズボンについたゴミや汚れを手で払い落しながら言った。

「で、なんでクワガタを?」

「ああ……弟が」

「弟?」

 上野の弟・公延は、知悦部小学校の三年生だ。現在の知悦部小学校で一番人数の多い学年が三年生だが、それでも公延を含めて四人しかいない。

「あいつの自由研究用なんだ。クワガタのエサの好みを調べるとかなんとか……」

「それ、間に合うのか?」

 夏休みの残り日数は、もう一週間もないはずだ。

「間に合わないかもな」

「弟、そんなにズボラだったっけ?」

 少なくとも、上野は宿題を忘れてくるようなタイプではない。成績も悪くないほうで、それは弟も同じだと聞いた気がする。

「本当は終わってたんだよ。あいつ、……ええっと、なんて言うんだっけか。ああ、ピンボールか。木材切ったりして、自作のな。五日目くらいには完成してたんだ」

「じゃあ、なんで今さらクワガタの研究なんか?」

「この時期になって、担任が急に電話してきたんだ。夏休みの課題は工作じゃなくて自由研究にしろって」

「どういうことよ?」

「知らねえよ。工作よりも自分のクラスの生徒が全員、自由研究をやってた方がかっこいいとでも思ったんじゃねえの。あいつだけじゃなく、他の奴らも工作って決めて作り終えてたのにな」

「担任って誰だっけ?」

「正確に言えば担任じゃないか。ちょうど産休でな。今、教頭の飯塚が代理やってる」

 飯塚靖教頭。僕らの中での知悦部地区のめんどくさそうな人ナンバー2。そして、めんどくさそうな人ナンバーワンである堀田氏の数少ない理解者。

「クソだな」

「クソだよ」

『空にかたつむりを見たかい?』 第38回

「じゃあアユムは、どうして今さらかたつむりが本当に飛ぶかどうかなんて気にしだしたの?」

「冷静になると自分でも分からなくなって、正直、今かなり悩んでるんだけどね」

「でも、続けてるんでしょ? だったら、引っ込みがつかなくなった以上の理由があるんでしょ?」

「自分の気持ちをぼやーっとした、曖昧な言葉で語るのは嫌いなんだけどね……」

 でも、ぼやーっとした、曖昧な状態でしかないのだからしょうがない。

「なんか、もし本当にかたつむり飛ぶってことが確認できれば、この先、生きていくのがラクになりそうな気がする」

「学会とかに発表して有名になるとか?」

 マリサが、少し怪訝な感じで訊いてくる。

「いや、発表はしない。もし撮影できても、閉校式の映像にはもちろん使わない」

「じゃあ、なんでラクになると思うの?」

「なんでだろうなあ……」

 なにか、すごく単純な理由のような気もするのだが、どうしてそれがはっきりとした形にならないのだろう。

「まあ、あたしも、もし本当にUFOなんて見ちゃったら、ラクっていうか、もう全部やーめたって気持ちにはなるかも」

「その気持ちも、なんとなく分かりそうな気がする」

 何か「大きな存在」というものに直面したという人が、「正しく生きよう」とか「生きる希望を持てた」と言っている理由がいまひとつ理解できない。マリサの言うように「やーめた」という気分になりそうなものだと思うのだが。あるいは気が狂ってしまうか。宇宙の法則に挑むホーキング博士みたいな人たちの精神力は、いったいどれほど強靭なものなのだろう。ひょっとして強靭であることと狂人であることなんて、変わらないものなのだろうか。

 僕が余計な思索にふけり、固まっていると、マリサはファイルを眺めながら話題を変えた。

「ところでさ、バンクシーの作品って、本当に全部バンクシーのものなのかな?」

「どういうこと?」

 思索のせいでぼんやりしていたこともあり、すぐにはマリサの言うことの意味が理解できなかった。

「いや、バンクシーって顔を晒してないわけじゃない? それで、基本的に謎だらけなわけでしょ?」

「そうだね」

「だからさ、もしバンクシーの作風をしっかり真似ることのできる人が、バンクシーと同じようにこっそり町のどこかに作品を残して、それを見た人が本物のバンクシーの作品だと勘違いしたら?」

「ああ……」

 なるほど、そういう話か。たしかに、そうなるとおそらくバンクシー本人が否定しない限り、それはバンクシーの作品として扱われるだろう。それに……。

「それに、そんな展開は、偽物はもちろん、きっとバンクシー自身も面白がりそう……」

 僕がそう言うと、マリサは「そういうこと」と頷いた。

「な・り・す・ま・しってこと」

「なんで、『お・も・て・な・し』みたいに言ったの?」

「自分から言っといてなんだけど、なんかやっぱり気持ちよくないね、この言い方」

 マリサは東京五輪反対派のひとりである。マリサだけではなく、僕もダイチもだ。もっとも、処世術を身につけた中学二年生は、めったなことでその思いを学校などで公にしたりはしない。興味を持って当然だと考えている連中は、人間の数の少ないこんな田舎でも、そこらじゅうに存在している。たとえば堀田氏とか……。いや、あの人のことを考えるのはよそう。

「メ―ヘレンの話を思い出すね」

「メ―ヘレン?」

 掘田氏のことを頭から追い出すために僕が記憶の倉庫から引っ張り出した名前を、マリサは知らないようだった。

フェルメールの贋作で有名な人だよ。ナチスの高官たちにフェルメールの絵を売った罪で逮捕されたんだけど、裁判中に贋作だって言いだして、最初は誰も信じなかったんだけど、実際に法廷で描いてみせたら信じるしかなくなったていう……」

「すごいね、それ」

「しかも、文化財の略奪者、売国奴から一転してナチスを欺いた英雄になって、結局、軽い詐欺罪にしか問われなかった」

 そういえば、バンクシーは当初『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』のタイトルを『クソのような作品をバカに売りつける方法』にしようとしていたらしい。メ―ヘレンによるフェルメールの贋作は「クソのような作品」とは言えないと思うけれど、「バカに売りつける」の部分は合っているかもしれない。

タモリさんが、赤塚不二夫の葬式で、私もあなたの数多くの作品の一つですって言ってたでしょ?」

 マリサの言葉に、いまや「伝説」と呼ばれたあの弔辞のことを思い出す。

「『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』のミスター・ブレインウォッシュもそうだけどさ、もし今、あたしたちが考えたように、バンクシーの偽物が、誰も気づかないうちにバンクシー本人として作品を残し続けているんだとしたら、そういう現象もすべてひっくるめて、バンクシーの数多くの作品の一つって言えるんだろうね」

「だとしたら、バンクシーって愉快でしょうがないんだろうね」

 僕は、あの芸術テロリストが抱き得るであろう世界に対する優越感を想像し、「空飛ぶかたつむりの謎」を調べようと思いたった時と同じように胸が躍っているのを感じた。

『空にかたつむりを見たかい?』 第37回

「聞いたよ、昨日のラジオ」

 僕の部屋のテーブルに今まで見つけた「絵」の写真をまとめたファイルを広げ、マリサは言った。

「月曜日はネットで深夜ラジオも聞かなきゃいけないから、もう眠くて眠くて。そういえば谷川さんに、絵のこと聞いてくれた?」

「いや……」

 本当は忘れてしまっただけなのだけれど、それだとマリサからの残酷な罰を受ける可能性がありそうなので、質問する前に時間がきてしまったことにした。ダイチは、土佐先生の家で作業をしているのでここにはいないため、後で連絡をとって口裏を合わせてもらおう。

「谷川さんもゲルニカ事件の時、ちょうどうちの学校に通ってたから、何か知ってるかと思ったんだけどね。でも、塔子さんも詳しいことは知らないって言ってるし……」

 マリサは地道に調べ続けてはいるが、端的に言ってしまえば落書きの犯人探しのため、あまりおおっぴらに聞いて回ることはできないようだ。

「描き手を見つけて、引きずり出したいわけじゃないんだよねえ」

「知りたいだけって言ってたよね」

 ゲルニカ事件のことはともかく、マリサがあちこちで見つけた絵に関しては、そもそも気づいていない人のほうが多い。ゆえに、犯人を見つけて公表したいわけではないマリサとしては、ゲルニカ事件のことを聞いて、あの事件に対し、特に不快感を持っておらず、他の一連の絵の描き手が分かったところで秘密にしておいてくれそうな人にしか詳しい話を聞けずにいる。ただ恥ずかしいから他人に言えない僕とは違うのだ。

「そういえば、アユムの部屋って、ちゃんと鍵があるんだね。ちょっと意外」

「どうして?」

「お母さんと仲良さそうじゃん」

「ああ……」

 顔も覚えていない父親のことはともかく、たしかに僕は母さんに対し、ちょっとした喧嘩くらいはするものの、鍵を閉めて部屋に閉じこもるような大喧嘩をしたことはない。あまり、顔を合わせる時間がないせいもあるだろうけれど。

「あたしの部屋には鍵がないんだけどさ、そりゃ、いくらあたしだって親と喧嘩して、本気で殺してやろうと思ったことなんてないんだけど、でも、本気とまではいかなくても、死ね死ね死ねくらいのことは考えるんだよね。でも、それって向こうもきっと同じでしょ? 鍵もかけずに寝てることがたまに怖くなるんだよね。台所には包丁だってあるし、そもそも部屋にハサミだってあるんだから、刺そうと思えばいくらでも刺せるんだし」

 考えてみれば、人が人を殺す時、もっとも多い関係性は家族だろう。マリサから仲が良さそうと言われる僕と母さんでさえ、お互いの部屋にちゃんと鍵はついている。ひょっとしたら、鍵をつけているからこそ良好な関係でいられるのかもしれない。でも、部屋に鍵のないマリサにこんなことを言うのは気が引けた。僕は話題を変えることにする。

「話変えて悪いけど……」

 一応、確認もとる。マリサは「別にいいよ」と言っている。

「今さらだけどマリサはさ、どうして絵の描き手が知りたいの?」

「うーん……いや、知りたいっていうかさ、自分の知らないことがあるって悔しくない?」

 その感覚は分からないでもない。そういえばマリサは現在、学年でもトップレベルの成績なのだけれど、、教師や自分よりテストの成績がよかった奴に対して、「あたしより理解しているのがムカつく」という思いで勉強しているのだとも言っていた。

 ただし、そんなマリサも、塔子さんに対しては、前にも言ったとおり、憧れはしても、悔しいとは思わないらしい。

「あと、あたしはさ、何か調べてるその過程自体が楽しいのかもしれない。どっかで、答えが見つかっちゃったらつまんないなあとも思ってる」

 ダイチは知ることそのものが楽しいと言っていた。対してマリサは、知る過程のほうが楽しいと言う。なんだかんだで、僕の追っている「空飛ぶかたつむりの謎」にも首を突っ込んできているのは、それが「解決しそうにない謎」だからかもしれない。ずっと過程が味わえる。ひょっとして、塔子さんに心酔しているのも、絶対にああはなれないという思いからなのだろうか。

『空にかたつむりを見たかい?』 第36回

「いつかなっちゃん土星を釣った日」

 

 なっちゃんはママといつも星釣り場

 いつも土星が釣れずにがっかり

 いつか一緒に いつの日か

 ママと一緒に土星を釣る

 でもいつの間にか大きなって

 ママとのお買い物も減っていく

 ママとのお買い物なんて恥ずかしい

 星釣り場なんてもっと恥ずかしい

 大人になったなっちゃん

 いつかの懐かしい星釣り場へ

 懐かしいという気持ちを知ったから

 ママとの懐かしい星釣り場へ

 あんなに難しかった土星

 大人になったら簡単に釣れてしまう

 でもあんまり嬉しくない

 だってもうママはいない

 帰って話すのも恥ずかしい

 恥ずかしいという気持ちを知ったから

 いつかなんて、もう来ない

 

○○○   ○○○   ○○○

 

「はい。谷川拓也さんのニューアルバム『TEO』から『いつかなっちゃん土星を釣った日』でした」

「どうもありがとうございます」

「なんか、ちょっと悲しい歌ですね」

「フォーク調ですしね。Am、Emだらけ的な」

「ゆずがお好きだと仰っていましたが、フォークはジャンルとしても好きだったんですか?」

「そうですね。音楽に詳しい友達から教わって、古いのもかなり聴きました。でも、いちばん好きなのは、なぎらけんいちさんです」

「あまり悲しくないですね、それは」

「でも、『葛飾にバッタを見た』だって、どことなく悲しいですよ。まあたしかに、フォークシンガーとしてのなぎらさんも大好きですけど、愉快な嘘つきとしてのなぎらさんは、もっと好きですね」

「この番組では、最後にゲストのみなさんのお気に入りの一曲を流して終わるのですけど、そういえば『葛飾にバッタを見た』にするかCCRの『雨を見たかい』にするかで迷ってましたね」

「結局、『雨を見たかい』にしちゃいました。なぎらさん、ごめんなさい」

「じゃあ、なぎらさんについてもう少し語っておきましょうか」

「そうですね。ああ、そうだ。『葛飾にバッタを見た』の中に、俺はまだホンダのカブのバイクにしか乗ったことがないのに奴は車に乗っているんだろうかって一節があるんですけど、今ならカブのほうが素敵だなって思う人が増えてると思うんですよ」

「ああ、そうかもしれませんね。それこそ、バッタの一匹でも見られること以上に、カブのほうが素敵じゃないかって」

「はい。そういえば、この辺りはバッタ出ますか?」

「このラジオ局の辺りは、ちょっとどうか分かりませんけど、私の家の周りにはけっこう出ますよ。一時期、なぜかそれ以上にカマドウマが出て困りましたけど」

「カマドウマは嫌ですね」

「北海道はゴキブリの代わりにカマドウマがいますからね。でも、本当にその一時期だけだったんですよ。その直前に、小学校にいた変な先生が、近くの川を綺麗にするとか言って、妙な菌だか何だかを撒いたので、その影響じゃないかと思ってるんですけどね」

「信念を持って清らかな水を蘇らせようとしたんでしょうね。信念があればいいってもんじゃないですけど」

「クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルですね」

「訳すと、そういう意味になるんですよね。クリーデンスは友人の名前で、クリアウォーターは流行っていたビールのCMからで、リヴァイヴァルは復活宣言だっていう話のほうが本当らしいですけど」

「『雨を見たかい』も、ベトナム戦争の歌だって言われてましたけど、CCRの崩壊についての歌らしいですね」

「実際にベトナム戦争に関しての歌は、『フォーチュネイト・サン』のほうですね」

「また、いい感じにCCRの話につなげられたところで、そろそろお別れの時間のようですね。次回のゲストは、月居ギララとダイゴロウ・ゴリアスの皆さんです。ここまでのお相手は高山龍子と、そして」

「谷川拓也でした。アルバムよろしく!」

「それでは、最後に谷川さんお気に入りの一曲でお別れしましょう。クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルで『Have You Ever Seen The Rain? 雨を見たかい』」

『空にかたつむりを見たかい?』 第35回

「もうひとつの地球」

 

 戸惑う宇宙飛行士

 目の前に広がる荒野

 故郷にもよく似た

 懐かしさと新しさ

 彼の細胞が

 いまここを許す

 

 生まれる前に見たような

 水のような空気が包む

 この形になって

 感じ続けてた あれは何か

 見てみたかったのは

 

 これなんだきっとほら

 翼の生えたイルカのような生き物が

 太古の地上に生い茂っていたような樹に

 降り立った

 防護服に包まれた

 彼の目を見て 首を傾げる

 

○○○   ○○○   ○○○

 

「はい。谷川拓也さんのニューアルバム『TEO』から『もうひとつの地球』でした。最後まで聴きたい方は、ぜひアルバムをご購入ください」

「よろしくお願いします」

「九五、六年というと、まあ激動の年代って感じですね」

「僕らの世代が小学生の頃ですね。ちょうど九〇年代の半ば」

「音楽だと、小室哲哉さんの全盛期ですかね」

ダウンタウンの浜田さんと一緒にやった『WOW WAR TONIGHT』がちょうど九五年なので、そう言っていいと思います。なんか、小室さんというと、まっさきにあの歌が思い浮かぶんです」

H Jungle with tですね」

「はい。でも、あのころ、学校で一番流行っていた歌ってなんだったかなって考えると、たぶん小室でも安室でもないし、ドリカムでもミスチルでもなくて、ましてやオアシスとかブラーとかエイフェックス・ツインとか洋楽を聴いてる小学生なんかそうそういないくて、やっぱりあれなんですよ。ショーコー、ショーコー、アサハラショーコー」

「ああ……」

オウム真理教の一連の事件でテレビニュースが埋め尽くされてましたからね」

「なんか、当時のバラエティ番組で女子高生にテレビに対する意見を募ったら、オウムばっかりやるなって意見が一番上にあったのを覚えてます」

「本当、すごかったですね。あとは、阪神大震災とフランスの核実験ですか」

「なんか、終末感漂ってましたよね。だから『エヴァンゲリオン』とかも流行ったんでしょうけど」

「でも、じゃあ当時、小学生だった僕たちが、そういう終末感みたいなものを感じていたかっていうと、なんかファンタジー的な魅力は感じていたかもしれないけど、結構明るくやってた気もするんですよね。実際、ショーコーショーコーっていうあの歌も、みんなギャグみたいな感じで歌ってましたし」

「北海道の田舎だと、特にそうなのかもしれませんね。実感がわかないというか……」

ノストラダムスとかを目前にして、世間的には暗い感じもあったんでしょうけど、こっちでは九六年なんて、『水曜どうでしょう』の始まった年ですからね」

「暗くもなんともない」

「僕なんかは、暗い実感を持てなかった九十年代半ばよりも、八十年代の終わりから九年代初めくらいに出てきた暗さのあるもののほうが、しっかり終末感みたいなものは感じますね。いとうせいこうさんの小説とか音楽活動とか」

「私は、あまり触れてなかったですね。その辺りは」

「いずれにしても、小学生だった当時、怒りとか憎しみとか絶望って、世間や世界に対してより、自分の通っている学校に対してのほうが大きいですから」

「けっこう、怨みとかあるんですか?」

「いっぱいあります。たとえば、僕、泳げなかったんですよ。で、六年生の時の水泳記録会で一年生に交じらされて、らっこ競走だかなんだか……こうビート板を胸に抱えて仰向けになって泳ぐっていう、そんなのに出されたんです」

「うわあ、それはちょっと……」

「当然、笑われますよね。でも、その時笑ってたヤツで、一年生レベルの勉強が理解できてないヤツだっていたんですよ。そいつが一年生に混じって勉強させられるってことはないんですよ」

「でも、運動ができない子が笑われる」

「そうなんです。中学も一年の時は、運動部しかないくせに強制参加でしたからね。まあ、顧問に恵まれて三年間やり通せたので、それはそれでよかったんですけど」

「何部だったんですか?」

「サッカー部です。サッカー部の顧問の先生がいちばんいい人そうだったので。実際、いい人だったし、正しい身体の鍛え方なんかも教えてくれました。今でも、あの頃のトレーニングは軽く続けてます」

「今でもですか?」

「はい。雨の日なんかのための陸トレってやつです。腹筋二十回、背筋二十回、腕立て二十回、スクワット三十回を一セットとして、一日三セットやるんです」

「けっこう、きつくないですか?」

「慣れちゃいましたからね。でも、ちょうどいいくらいだと思いますよ。実際のサッカー部時代は、短距離のダッシュとかも含まれてましたが、それはやってません。場所もないですし」

「なるほどなるほど」

「ただ、それでも当時、スポーツばかり推進していた連中に対しては、やっぱり怨みがありますね。小学校では、やたらスケートが盛んで。これも嫌でしたね」

「それは、私も嫌いでした」

「なんか、学校側というより、青年部がやけに力が入って、無理矢理やらせてくるんですよ。バカみたいにやらせるから、たしかにある程度上達はするんだけど、中学校に入ったら、みんな辞めちゃうんですよ」

「スケート人口減らしてますよね」

「清水選手とか、怒ったほうがいいですよね。余計なことするんじゃないって」

「ははは」

「僕は、けっこうみんなが簡単にできることができない子供だったんです。でも、逆にみんなが苦手なことは得意だったりもしました。評価してくれる人もいないわけではなかったけど、やっぱり圧倒的にバカにされるほうが多かったですね。結局、できないことのほうが目につくし、バカにする方が尊敬するよりも楽しみやすいんでしょうね、人って。実際、みんなにバカにされている時の僕でさえ、僕が簡単にできることがちっともできないくせにバカにしやがって、って他のみんなのことを心の中でバカにしながらムカついていたわけですし」

「人間なんてそんなものと言ってしまえば、それまでかもしれませんけど……」

「なんか自己嫌悪にもなりますよね。なんとか楽しくやっていく方法を見つけましたけどね」

「平気で生きるやり方を、ってやつですか?」

いとうせいこうさんの『噂だけの世紀末』の一節ですね。知ってるじゃないですか」

「あまり聴いてなかったんですけど、あの歌はなんか覚えてるんです」

「平気で生きるやり方。大事だと思いますね。無理な苦労して身につくものでもないと思いますし」

「勉強はたくさんしたほうがいいし、遊びも経験もたくさんあったほうがいいとは思うけど、余計な苦労なんてしないほうがいいよね」

「若いうちの苦労なんて、金を払ってでも避けよ、ですよ」

「いつか役に立つ、いつか大人に感謝する日がくる。全部、たいてい嘘ですよね。というわけで、『いつか』というワードにうまくつなげたところで、谷川さんのニューアルバム『TEO』からもう一曲。『いつかなっちゃん土星を釣った日』です」