2022-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(50)

「枝が台無しじゃん!」と新聞局の女子生徒が半泣きで教頭の身体から記念樹の枝を引き抜こうとするも、無理に抜けば教頭の肉や骨に邪魔されて折れてしまうであろうと周りも理解していた。冷静さを失った女子生徒を数名がなだめつつ、バスケ部の当時の主将が…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(49)

「肝臓に溜まったガソリンが朝まで燃えた 残飯に混ぜて犬に喰わせたあいつの目ん玉 どうやら今日は厄日のようだ どうやらこれは殺しのようだ」 札束だけでなく、自らの身体まで燃やしてしまった担任への追悼なのか、1年G組の教室には、誰かが黒板に赤いチョ…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(48)

事実、キックの管理下から外れた後の廃棄物置場は、後任の元野球指導者の無知によってチャタテ虫が蔓延るほどに荒廃し、10年と経たぬうちに会話する樹木以外の植物は枯死した。遠い未来のキックの子供が、会話する樹木の前にしゃがみ、祖先の過ちの贖罪のた…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(47)

猛暑の中、野球部の全校応援に駆り出され、すっかりぬるま湯と化した紅茶で必死に水分補給をしていた時、唐突に響いた共闘隊の銃声は、どんな歓声よりも私の心を奮わせ、球場に放たれた警備隊の放水を浴びに走るついでに、混乱のどさくさに紛れてサッカー部…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(46)

前衛音楽家が占い師の女と共に住む湿度の高い集合住宅から西に進んだ川辺の人形屋には、私が中学の卒業文集に好みのタイプとして記した球体関節人形に生き写しのドールがいて、金銭で取引することも憚られたので、毎日のように別の商品を購入しつつ、彼女の…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(45)

手袋はやけに映画に詳しく、仲間の手袋たちと共に、様々な映画の名シーンを再現してみせた。ただし、最後の演目は『北北西に進路を取れ』なのか『北北西に進路を取れ』のモノマネをする『アリゾナ・ドリーム』のヴィンセント・ギャロなのか、いかんせん手袋…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(44)

溶剤の精度を上げるために必要な薬草を採取するため、山上と共にコスタリカへ向かう途中、人生初のホーボー体験をした。「素敵な景色ですね、ハーパース」と山上が言い、ハーパースとは何か尋ねると「いませんでしたか、そんな奴?」という返事。記憶を探っ…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(43)

不器用の烙印を押されたことが悔しくて、誰もいない教室の隅で数秒だけ泣いてみたが、すぐに怒りの占める割合のほうが多くなり、校門近くのアスレチックの壁を蹴りつけると、出来の脆さゆえに板が外れ、不思議と教頭は笑って修理してくれたが、2年と持たずに…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(42)

タズネル氏を総括として行われた映画撮影の最中、目の据わった熊男に因縁をつけられたH氏が発作を起こして退場したがあった。私が別の現場から逃亡した翌日のことで、その頃はちょうど渋谷のタワーレコードで開かれたGUIROのインストアライブを観ていた。「…