サンタは誰かのパパだった

 幼稚園児の頃、家にサンタが来た。真昼間に、チャイムを鳴らし、玄関から先には上がらず、靴を脱ぐこともなく、私にプレゼントを渡して去って行った。どこかの知らないおばさん(母は知っているようだったが)と一緒だった。

 今でもたいして丈夫な身体ではないが、幼稚園くらいの頃は、もっと病弱で、年に数回入院することもあった。我が家にサンタが来たのも、幼稚園で催されたクリスマス会に体調不良で参加することができなかったからだ(幼稚園に入園する前、病院でクリスマスを迎え、小児病棟の子供たちを集めたクリスマス会に参加したこともある)。

 その数日前、まだ身体が悲鳴を上げる前に、幼稚園でサンタに望みのプレゼントを伝えるための手紙を書いた。私の望みは、自分用のCDプレーヤーだったのだが、我が家の玄関でサンタがくれたプレゼントは、総額300〜500円くらいの駄菓子の詰め合わせだった。幼稚園児とは言え、「そういうものだ」ということは既に理解していたので、文句は言わなかった。もっとも、まだ身体も本調子ではなく、文句を言うだけの元気もなかった。

 さて、このサンタだが、あからさまな付け白髭とサンタ服の奥に見え隠れしたのは、当時の平均的な三十代〜四十代くらいの日本人男性で、私の住む地域の誰かだったらしいのだが、はっきりとしたことは分からない。当時は、一応「サンタ」であったわけで、幼稚園児の私が訊いたところで教えてもらえなかっただろうし、訊くのも野暮だと思っていた。だが、小学生くらいになって改めて訊いてみたら、父も母も同級生たちも、誰がサンタに扮していたのか覚えてはいなかった。私は病弱だった影響で、幼稚園には二年しか通っていなかったが、地域の誰かがサンタ役になってクリスマス会が催されるのは毎年のことだったようで、私が参加できなかった年のサンタ役が誰だったのかは、数年経過してしまえば、もう誰も思い出すことができなかった(秋田のなまはげではないが、サンタ役のおっさんに酒が入っていた可能性も非常に高く、だとすれば、やった本人もよく覚えていないのだろう)。

 ただ、その当時、幼稚園に通っている子供を持つ父親には、さすがにサンタ役は回ってこなかったと思う。ゆえに、我が家にチャイムを鳴らしてやって来たサンタは、幼稚園に通っている子供はいない者、もしくは、そもそも子供がいない者だったのだろう。しかし、それが分かったところで、いくら住人の少ない北海道の辺境とは言え、該当者の人数はそこそこになるので、特定には至らない。

 ちなみに、この地域の人間の容姿・性格的には、サンタよりも鬼の方が似合いそうな人が多かったのだが、節分の時期に鬼が幼稚園や各家庭に現れたことはない。まあ、なまはげ以上に無駄なアグレッシブさを発揮して、なにかしらのアクシデントが発生する危険性もあったと思われるので、自重していたのかもしれない。