『この西瓜ころがし野郎』(1)

 伸びた爪が土地鴉(とちがらす)の餌になると知ってからは、庭の隙間に指を突っ込むことが日課となり、すっかり指先は土地の栄養を吸ってしなやかになったのだが、いかんせん用済みになった爪切りのやつの愚痴が鬱陶しいので馬を飼い始めるも、馬の爪を削っていくには爪切りのやつではどうにも時間がかかるので、馬の爪削り専門に二人ほど雇うことに決め、幸い土地鴉の餌代が浮いた分、暇の多い人間を雇うこともでき、今では馬が庭の隙間以外を歩き回ることによって、この土地における我が家の地位は鰻登りも良いところ、嫉妬に狂った西瓜ころがしが綿毛を散らすようになったのが困りものだが、和尚の言うことには、「そこいらの雑草を煮詰めて馬の頬を拭きなさい」、早い話が西瓜ころがしは既に土地じゅうの疫病神なわけで、糟の浮きすぎた芋酒ばかり飲んでいるような老人だったのだから、真面目な百姓に嫌われるのも当然で、そもそも芋酒に浮く糟が知恵を授けるわけもなく、老人の言う本当のことなど有りもしないのは日向の娘たちも認めるところであり、そんな西瓜売りに人の内など見抜けるなんてこともまた滑稽な虚栄の祭り、すぐに私の馬の頬に雑草を煮詰めた汁を優しく塗ってやると馬も「ふひひ」と笑ってみせたことで私の評判も上々、老人の飼う老犬には悪いことをしたが、西瓜ころがしの飼い方ではきっと苦しいだけのことであったはずから、たとえ黄粉狂いのぐうたらの頬を舐めてやる余生だとしても、それはそれで悪くないものだと老犬も申していたわけで、ここらでひとつ、やつの西瓜はすべて川魚の急坂から蹴り落としてやろうじゃないかと和尚と共に散歩がてら歩きはじめた。