2002年、「元・ヴィレッジ・シンガーズの清水道夫」を語る男が長野県のカラオケ大会に特別審査員として出演し歌も披露したという詐欺事件があった。これは、同年に発表されてヒットした、島谷ひとみによる「亜麻色の髪の乙女」のカバーバージョンに便乗したものだったようだが、事件がニュースになった後、「ファンは分からないものなのか?」と同級生に訊かれたことがある。実際、犯人は清水道夫には似ていなかったらしい(ウィキペディアを見てみると「横浜銀蝿」似と書かれている。1996年には「横浜銀蝿」のメンバーを騙った詐欺事件でも逮捕されているとか)。
私の父はGSブームの後期あたりにプロのミュージシャンだったことがあるが、「スパイダース、タイガース、テンプターズあたりならともかく、ヴィレッジ・シンガーズならば偽物だと気づかれなくても無理はないかもしれない」という返答が得られた。たしかに、上記のGSを代表する3組と比較すると地味な印象であることは否めない。堺正章や岸部一徳のように、現在もなお頻繁にテレビ等で姿を見ることができるメンバーも残念ながら存在しない。
そんな事情もあって、好むと好まざるに関わらず、私くらいの世代の人間にとって「亜麻色の髪の乙女」は島谷ひとみが歌った楽曲という印象が強い。ネオGSブームにすら間に合ったとは言えない世代にとって、本家のGS、それもヴィレッジ・シンガーズとなると、現在ほどインターネットも普及していない2002年の時点では、知ろうとしてもなかなか豊富な情報に辿り着くのは困難だったのである。
ゆえに、アマチュアのおじさんバンドが「亜麻色の髪の乙女」を演奏して、(当時の)若者から「気持ち悪い」と評されてしまったのを見たことがあるが、それも無理のない話で、おじさんたちにとってはヴィレッジ・シンガーズの歌であっても、下の世代にとっては島谷ひとみの歌なのである。まあ、ひょっとしたら若者受けを狙った選曲であって、そこを見透かされたうえでの「気持ち悪い」だったのかもしれないけれど。
ちなみに私は「亜麻色の髪の乙女」よりも“亜麻色の髪のサラって女”が登場する「横浜ホンキートンク・ブルース」のほうが好きである。しかし、これもまた下手に素人が歌うと「気持ち悪い」と評される危険性の高い楽曲だと思う(ブルースは感情の込め過ぎに注意である)。