三題噺『カロン』

(三題噺/テーマ【ゆりかご】【サイレン】【さようなら】 2010年04月07日 22:48投稿)


カロン

 私が彼に会えた理由は分からないし、彼自身も分からないと言う。
 普通は会えるものではないし、そもそも彼を見つけることが出来ない。
 見つけたとしても、すぐに死んでしまう。
 しかし、私はこうして彼と話している。つまり、死んでいない。
 彼曰く、稀に彼のような存在が「見えて」しまう人間がいるらしく、どうやら私はその一人らしい。見えるというだけで、どうすることも出来ないし、どうなることでもない。
 私と彼が話していることは、私の姉の子供をどう殺すかについてである。
 本来は彼だけの仕事なのだが、彼曰く「どうせ会ったのだから」ということで、私もあの子の死に方を考えることになった。
 それ以外、どうすることもできないのだから、せめて死に方くらいは考えてあげようと思ったのだ。
 あの子は、どうやら姉よりも私になついているようだった。
 まだ、言葉も話せず、ゆりかごに揺られているだけの存在だが、どういうわけか母親である姉よりも、私に良い反応をする。
 赤ん坊はあまり好きではなかったが、案外悪くない気分だった。
 今も、ゆりかごに揺られていることだろう。「何も知らずに」という言葉が、これ以上当て嵌まる場面もないくらいに。
 ゆられるあの子の姿を想像していると、彼が「時間がない」と言った。時間切れになっては、どういう死に方をするか分からない。
 私は、私の頭で考えられる限りの「幸せな結末」を急いで導きだし、彼に告げた。
 彼は、特に思うところもなさそうな感じで「わかった」と答えた。
 そして、しばらくの間、私と彼は向かい合ったまま時が経つのを待った。
 二時間ほどして、遠くから救急車のサイレンが聞こてきた。
 パトカーかもしれないが、私はあまりサイレンに詳しくないので分からない。「サイレンに詳しくない」というのもおかしな言い方だけれど。おかしすぎて、自分の頭の中だけで発せられた言葉なのに、不覚にもくすりと笑ってしまう。
 私が笑ったことに対し、彼が少しだけ反応したので、「さようなら、と心の中で言ったら、悲しくて笑えました」と、これまたおかしなことを言ってみた。
 私はまたくすりと笑い、彼は笑わなかった。
 彼には興味のないことなのだろう。

 彼の仕事は、人の死を演出すること。
 殺すことも生かすこともせず、ただその死に方を決定するだけ。
 他に興味を示すことがあるのかどうか、たぶん彼にも分からない。 

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 昨日、一昨日よりはマシだが、まだ寝込んでます。すみません。弱ってるので、ずっと竹村延和を聴きながら清水マリコの本を読み続けてます。清水マリコ作品を映像化する際は音楽は竹村さんでお願いします。主題歌は空色絵本でお願いします。
 
 
 何度か申しておりますが、清水マリコ竹村延和と空色絵本について語り合える仲間を探しております。どれか一つではなく、この三者を繋げて語り合える仲間を募集中です。

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