テリトリーを失った野良犬は、すなわち負け犬である

 美月雨竜氏は本人の精神面の諸事情により、長期入院か、はたまた長期休業か、という状況だったが、むしろ今回はバリバリと仕事をした方が良いと言われた。

 ようするに、今回の精神面の諸事情の原因は「仕事」ではなかったということである。まあ、それは本人もわかっていたようだ。

 今回の原因は、むしろ仕事外の、本来なら息抜きになるはずの場に関するものだった。一応の解決(というより、私自信が考え方を少し改めた)を迎えたが、引きずり易い面倒な性分である美月雨竜氏にとっては、いっそ仕事や勉強に集中して、息が抜けなくなった息抜きの場には、あまり目を向けないようにした方が精神衛生上良いのではないか、という判断である。

 かつて、美月雨竜氏は本当にぱったりいってしまったことがある。映画学校に通っていた頃の事だ。最大の原因は美月雨竜氏の貧弱すぎる精神と肉体だが、そのスぺランカー並みの虚弱体質を撮影実習のあれこれや実家での問題等が、どういうわけか同時に集中攻撃してきたのである。

 幸い、美月雨竜氏は、学校側から「鍛えれば将来花開いて、学校的にも自慢できるかも」とも「留年させたらもっと学費を払わせられるだろう」とも思われていなかったようで、一時的に現場を離れることができた。良い意味でも、悪い意味でも、学校や同期生達から期待されても必要とされてもいなかったのだろう。

 ところで、今回、色々とこのような状況になった原因などを自分なりに考えてみたりもしたのだが、どうやら私は、テリトリー意識というものが強いらしい。

 そういえば、鴨志田穣さんもそうだったと、西原理恵子さんの漫画に書いてあった(西原理恵子『できるかなリターンズ』参照)。鴨志田さんのテリトリー意識の強さは、アジアでずっと野良犬だったかららしいが、私もそこまで壮絶ではないものの、幼・小・中・高と、学校内で野良犬みたいな立場だったので、自分の居場所がないという恐怖に敏感なのだろう。過剰に反応して、自分で居場所をなくしてしまうきらいもある。今回のは、きっとそれだ。

 厄介なことに、私は、自分の居場所がなくなる(または追い出される)恐怖に敏感なうえに、自分が(無意識であっても)他人の居場所をなくしてしまうという恐怖にも敏感らしく、この二つに挟まれるのは、かなりしんどい。

 考えてみれば、今よりも、映画学校の時よりも、幼稚園〜高校時代の方が辛い状況だった気がするのだが、あの時つぶれなかったのは、今より体力があったからというのも勿論あるだろうけど、それ以上に、勉強することに逃げることが出来たからなのだろう。飲んで、騒いで、遊んで的なコミュニケーションが苦手な私が、それでも居場所を確保するには、可能な限りの知識で武装するしか方法が浮かばなかった。実際、それで、今までなんとかやってきた(それでも、人並みに友達と遊んだりしたいという欲望もあるから厄介なのだけど)。音楽そのものにはなれないけど、ジュークボックスにはなれた、とでも言うべきか。

 そういえば、ちょっと前に真子君(映画学校同期。現在脚本家)から、「歩くウィキペディア」と言われたことがある。まあ、そうなることでしか、他人と関わるきっかけを持てなかったからねえ……。でも、真子君みたいに、私の知識に興味を持ってくれる人が相手じゃないと、「歩くウィキペディア」であることは、あまり武器にはならない。

 私は、血液型性格診断がどれだけアテにならず、また社会にとってどれだけ害悪となっているかについて色々調べたけれど、呑みの場においては「話のタネになればいいじゃん」とか「刷り込まれて、みんなそういう性格になってるじゃん」みたいな意見の方が受け入れられがちなんだよな。実際、先々月、呑み的な場で、血液型性格診断に関しては徹底して否定の立場だと言ったら、上記のような意見の人の一言でかき消されたし。向うからしたら、盛り上がってる時に、そういう否定とかいらないよ、みたいな事なんだろう。

 まあ、今は、自分と関係を保ってくれる人を大事にすればいいと考えている。
 幸せなことに、一般的に見て多いか少ないかはわからないが、そういう人達はいる。悪友との契約も続いてる。なんとかなるだろう。辛くなったら、勉強や仕事に集中すればいいさ。

できるかなリターンズ (角川文庫)

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 美月雨竜氏が2012年9月11日に見た夢

 森の中で毛むくじゃらの野人を発見する。野人は3体。全身が真っ黒な毛で覆われていて、目や鼻があるのかどうかすら分からない。しかし、私に気付いたようで、すぐに森の奥へと走って逃げていく。私は野人を追う。

 必死に追うが、見失ってしまう。それでも諦めず、森の奥へと進んでいくと、原住民の村(?)にたどり着く。川口浩探検隊に出て来そうな、いかにもな「原住民」たち。彼らは、何かを捕えたらしく、祭りが開かれている。私は野人が殺されてしまったのではないかと不安になる。

 しかし、原住民が捕えたのは、大きな竜のような怪物だった。怪物の死骸は大きく口を開けた状態で横たわっていて、その口の中には、一人の男の死体。この男は、村で数々の悪事を働いたらしく、原住民たちは、この男の死を祝っているらしい。私は野人のことなど忘れ、彼らと共に悪人の死を祝った。