『この西瓜ころがし野郎』(10)

 西瓜は山を登り海を飛び越え、手始めに隣国の王様の盃にぼこんと乗っかり、意外に丈夫な盃に驚いてみせたのを王様が気に入り、ぺちんと褒めるために叩いてやったら、西瓜もまた上機嫌で弾んでゆき、段々畑で農民を追いかけつつ跳ね落ちていくと、そのままアボカドを乗せた船に潜りこみ、他のアボカドたちと仲良く跳ねながらリプトニアの港まで辿り着き、えいやっと船から飛び降りると、路上に立つ老人の頭の上の鶏と入れ替わるかに見せかけて、その向こう側でべにばな茶を一気飲みして氷砂糖を吐く芸人の足の甲に一発くらわせ、途端に芸人は氷砂糖を腹から漏らしてしまい観客たちは大笑い、西瓜は満足気にぼよんぼよんと隣の島まで跳ねてゆくと酒場で煙を吐くことに夢中になっている女のラム酒に自分の体液を一滴垂らし、ようやく味が変わったことに気づいた女が店主に文句をつける頃には既にラカンバの首都まで跳ね飛んでいってしまったので、西瓜は女に向かって客たちが「煙をやめれば良いことだ」と声をそろえて言ってのけたのを目にすることも耳にすることもなく、しかし女のラム酒に体液を零したのは、どうやら女が西瓜の鼻についたかららしく、ラカンバの首都でひとしきり跳ねまわった西瓜が舞い戻ってきて女の高くはない鼻にぼこんと当たったものだから店主の顔を女の鼻血がぶしゃりと染めあげ、驚いた店主の妻が砂糖きびを刻むのに使っていた鉈で西瓜を一刀両断、西瓜の体液がばしゃっと店主の妻の全身を染めあげ、客のひとりが割れた西瓜を踏みつけているところへ、少女の蹴り飛ばした何十発目かの西瓜が追いかけてきて、客の頭にぼこんとぶつかり、サトリの妻の蹴り飛ばした西瓜も次から次へと飛んできて、ラカンバの首都全体が西瓜くさくなるのも時間の問題なのだった。