『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(37)

 学校祭2日目には仮装パレードなどという恥知らずな催しが行われるが、通院日がずらせないと言い訳し、参加は拒否した。薬局で安定剤を処方してもらっている間、別の患者が受付の女性に「一羽の白鳥がシベリアに向かっているそうです」と話しかけていたが、「……そうなんですか」と答えるほかない。自分よりも症状の重そうな者を見かけると、なんだかいたたまれないような気分になり、通常量の処方薬では足りなくなることがある。頓服薬をもう少し多く求めておくべきだったと考えていると、整理してあった財布の小銭の列を崩してしまい、会計に余計な時間をかけてしまった。尚更、多めの薬が必要だ。

 仮装パレードの列と鉢合わせないよう湿度の高い裏通りを進み、近寄り難かった古書店に初めて足を踏み入れると、想定よりは綺麗に並べられた中古VHSの棚に『愛と希望の街』のようなタイトルを見つける。多めに服用した薬のせいで、はっきりと確認することはできないものの、手に取る必要は感じた。VHSは上・下巻で、作品自体は1979年の日本製らしい。画像処理で異様な色彩となったきのこ雲がパッケージになっている。黙示録的なイメージの壮大な実験映画といった趣だ。下巻のパッケージ裏には80年代の象徴として「はぐれメタル」が小さく印刷されており、製作年と合わないが何故か気にならない。解説に「はぐれメタルの放つ熱光線が…」と書かれているが、その先は安定し過ぎた精神状態では判読することができなくなっていた。持ち合わせが足りているかどうかも確認できそうになかったので購入は諦め、今では古書店の場所すら思い出せない。幻のビデオとして記憶の片隅に居座り続けるだろう。