『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(65)

 鍵穴に詰め込まれた金魚煎餅の粉は、キーによって更に車の内部に注ぎ込まれ、排ガスと共に赤錆の混じった愛車の臓物が吐き出された。焦げた金属片に引きずり出されたばかりの豚の腸を乱暴に絡ませたような愛車の臓物は、泥水溜まりにぶちまけられ、担任が耳障りな悲鳴をあげるほど悶え震えていた。鴉が腸の切れ端を啄もうと寄ってきたが、消化に悪いだけでは済まなそうなので、なるべく優しい目で遠ざけてやった。小学生の頃から周りの幾人かよりはるかに話の通じた鴉は察するのも早く、焼却炉の風上に育ったグスベリーの実を子供の食事分も含めて集めはじめた。担任の爪には赤錆が溜まっていた。曾祖母の左手薬指の爪には、薄い黒曜石が挟まっていて、亡くなる日まで気圧が崩れると鈍痛に見舞われていた。赤錆だけでなく、腸のような愛車の臓物まで爪の間に押し込んでしまったのなら、曾祖母以上の重傷となるであろう。爪を剥がして、しっかり消毒すれば良いだろうが、麻酔を打つ猶予はないのだ。

 日本で2番目か3番目の熱気球の名所近くにある雑な管理のスクラップ置場で担任の愛車と担任は錆と同化しはじめているらしいことを上磯瀬の魚屋が地元新聞に投書していたが、地域の抱える最大の問題は交通マナーの悪さだったので大きな話題にはならなかった。土壌汚染も今さらの話で滑稽でさえある。投書による影響といえば、担任の娘が引退を表明したことくらいで、潤一だけでなく数多く存在する教え子たちの怨みとは、とても釣り合うものではない。お嬢はスクラップの一部と化した頭部を見つけると、顎だった部分から首の付け根だった部分を貫通させるように腐りきった渦状の鉄を刺し込んでいた。