それは捨身か高潔か

 保身は最低だと口にする者は、自分はいかなる時も保身を考えない自信があるのだろう。そして、それを口にできるということは、確かに今のところは保身など頭にないのだろう。どれだけ保身を醜いものと考えていても、いかなる場合でも保身を考えずにいられる自信があるかと言われれば、多少の想像力と知識を持つ者であれば、そこまでの自信を持てるはずはなく、それゆえに万が一保身に回った際に傷口をより深く抉られる可能性を踏まえ、保身のためにも「保身は最低だ」などと軽々しく口にはできないと考えるはずだからだ。もちろん、多少程度の想像力も知識も持たない者であれば、ただただ不用意に、底の浅い正義感をもとに「保身は最低だ」と述べているのだろうが、それほどまでに想像力も知識も乏しい人間が大勢存在しているとは、仮に事実だったとしても信じたくない。そんな人間が大勢であれば、保身を考えようが考えまいが、いつ何時自分が理不尽な被害を被ることになるか分かったものでなく、ただでさえ生きにくい世界がより一層息苦しくなり、それこそ保身などという考えもなくなり、生存本能を破棄する事態になりかねない。保身のためにも「自分が保身に回る可能性をかけらも考慮せず、不用意に保身は最低だと口にする者」など、そうそう存在しないと考えておきたい。それに、「自分が保身に回る可能性を考慮できないほど知識や想像力の欠落した者が多い」などと軽々しく述べてしまっては、当たらずとも遠からずな者や該当者なのに該当者だとは認めたくない者たちからの反発を受けるであろうし、そもそもこのような蔑視的表現自体が非難の対象と成り得るわけであり、欠片程度の知識と想像力を持ってさえいれば、仮に実際にそう考えていたとしても、保身のため公に言い放つことは極力避けるはずである。ゆえにここでも「公に保身は最低だと述べる者たちの知識や想像力は欠片以下なのではないか」などと決して断言したりはしないのである。