冷たい校舎じゃ眠れない

 愛知県で起きた中学生刺殺事件の翌日、事件のあった中学校での全校集会において校長が「この中学校はみんながひとつの家族のような学校だと思っている」と語り、全員で黙祷したとのことだが、加害者の少年が供述している通りのいじめがあったのかどうかを抜きにしても、家族間殺人の多さを思えば、皮肉としか聞こえない発言に感じてしまう。たしかに、起きて顔をあわせている時間は、実際の家族よりも学校の人間の方が長い場合が多々あるのだが、それゆえにちょっとしたことが悲惨な結果を招く可能性も高いのだろう。いろいろと抱え込んでいる側からすれば、「みんながひとつの家族」などと言われれば、余計に絶望的な気分にもなり得る。

 考えてもみれば、学校という場で居眠りするなど、よほどの寝不足でもない限り、不用心極まりないことである。マナーだの礼儀だのというレベルの話ではない。その気になれば、後ろの席の人間が首の付け根に尖った筆記用具を突き刺すことなど容易いのである。授業態度として問題にするよりも、雪山遭難のように「寝るな!寝たら、死ぬぞ!」と叩き起こした方が良いかもしれない。実際、命にかかわるのだから、体罰に強く反対の立場の私でも容認しよう。修学旅行中に熟睡できるというのも、警戒心がひどく欠けた所業である。

 しかし、今日まで生きてこれたから冗談交じりに語れるものの、改めて考えてみれば、小・中・高と命も失わず、五体満足のままでいられたのは結構な幸運だったと思えてくる。学校にはカッターナイフもあれば包丁もあり、バットやバールもある。火を用意するのも難しくないし、塩酸などの劇物にも手が届く。わざわざ武器など配らなくても、学校生活は常にバトル・ロワイアルなのである。仕組みとして、根本的に無理があったのではないかと思うのだが、おおむね楽しかったと偽りなく感じている者もいるらしいので、解決どころか改良さえ希望が薄いのも無理はない。

 いずれにしても、件の校長の発言は、本心であれ取り繕った綺麗ごとであれ、私には受け入れ難いものである。