『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(39)

 不思議な能力を持つ双子姉妹が生まれたのは16年前の7月4日で、その日、家には一羽のフクロウが迷い込み、そのまま住みついた。フクロウはなぜかリンゴ以外の食物を受け付けず、それは姉妹も同じだった。そして姉妹が3歳になる頃、姉は突然、読んだことのないリラダンの『残酷物語』を原語で暗唱した。妹は姉の暗唱する『残酷物語』をひらがなの教育すら終えていないうちに書き取り、言語学にも文学にも明るくない両親は困惑し、せめて病院を頼るべきところを怪しげな宗教家と活動家に縋りつき、結果的に家庭崩壊の元凶を招いた。姉妹が施設に保護された後も活動家は研究所の影響だと主張し続けた。

 姉妹は吸い込まれそうなほどの白い肌を持つ美少女で、津張悦部以外の土地の者たちからも大いに注目されていた。活動家は研究所への抗議を続ける者たちと結託し、姉妹を反対運動のシンボルに祭り上げようとしたが、14歳を迎えた姉妹は逆に研究所の広報活動を自発的に行いはじめ、世間を騒がせた。動画サイトに投稿された姉妹による広報動画は既に50本を超えていて、再生回数もかなりのものになっている。しかし、内容は研究所をバックに不可思議なパフォーマンスが披露されるばかりで、姉妹は一言も言葉を発しない。抗議活動とは徹底して交わらないが、広報活動と呼べるかどうかは意見が分かれた。

 姉妹の動画作品のなかに、抱き合いながら口づけしたままの体勢を2時間にわたって保ち続けるものがある。かつて、Marina Abramovicが行ったパフォーマンスに似ているものの、鼻呼吸を防いでいない分、そこまでの肉体酷使ではなく、視聴する者のほとんどは静謐な美しさ以外は感じていないようだった。実際に姉妹と会った者たちも、大半が口をそろえて「吸い込まれそうだった」と述べる。二人はほとんど表情を変えず、淡々と静かに質問に答えるだけだったが、それだけですでにアートのようなものだった。活動家たちも同様だったが、彼らは自分の領域に戻った途端、懲りもせずにまた策略を巡らせていた。