『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(40)

 まったくの偶然だが、「恥じらいの四戦士」の一人であるH氏がかつて発表した映画のプロットは姉妹を巡る騒ぎに酷似していた。『アトミック・シスターズ』と題されたプロットは講師たちから酷評されたものの、後に多くの文化人が見せた残念な言動を考えると、彼らの反応は皮肉と言う他ない。酷評がきっかけだったわけではないが、H氏は学び舎を支配する空気の毒気や肉親の自死未遂などが重なり、卒業を目前にシュヴァルツェヴァルト氏やエドガル氏のごとく頭部が開かれ、耳から虫が這い出るような悲惨な最期を迎えた。K氏はH氏を悼み、“急に咲く花”を代々木八幡の歩道橋から放り投げた。事務局のドロヌマヒロヤスは「実家の隣にある川が良くないから引っ越すべき」という無責任な診断を卑劣にも間接的に下していた。山上と私はせめてもの報復として、ドロヌマに前科を背負わせようとしたが、意外にも国策が私たちに味方し、ドロヌマだけでなく複数の講師もこれまでの言動を断罪された。

 代々木八幡の歩道橋は、H氏が監督として撮影した唯一の場所であったが、その映像を収めたDVDは下北昇平の住んでいた部屋で、下北が資料室から借りっぱなしにしていた書籍数点を探している際に発見された。発見したのは、やはり山上で、H氏が酷い喘息持ちだったことにも彼だけが気づいていた。歩道橋から千代田区のセントラルパークに移動したK氏は、偶然、オールブラックスのパフォーマンスに鉢合わせ、柄にもなく興奮し見入っているところだった。すると隣に座っていた女の子がK氏の膝を叩いてきた。女の子はマチルダそっくりで、K氏はどうしていいかわからず必死に気づかぬふりを続けた。しかし、女の子はずっとK氏の膝を叩いて何かを訴えてくる。いつの間にかオールブラックスの姿は消え、石畳氏が女の子の通訳を買って出た。Joanna Newsomの歌声のような女の子の言葉はジョージアの言語らしく、K氏は石畳氏がはじめから公園にいたことも自然と納得しているようだった。