君に好かれても迷惑ではあるけれど

 朝食時に蚊が室内を飛んでいるのが見えた。すぐに視界から消えてしまい、退治することができなかったため、しばらくは刺されてもいないのに体のあちこちが瞬間的に痒みを感じる症状に襲われた。

 その日は用事もなく一日中家にいたのだが、錯覚としての痒みには何度も見舞われるのに実際に刺された様子はなく、肝心の蚊本体を発見することはできないままだった。どうやら、蚊にすら見向きもされなくなったらしい。

 考えてみれば、もう長いこと蚊に刺されていない。最後に刺されたのがいつだったのかも覚えていない。酒を飲まない分、刺されにくいのかもしれないが、高校くらいまではそれなりに餌食になっていたはずなので、加齢による代謝の低下や体質の変化の方が大きいのだろうか。なんだか、生命体として認識してもらえなくなっているような気もする。蚊に死期を判断されるのは、さすがに癪である。もちろん、蚊なんぞに好かれたいとは思わないが。

 蚊の数が減ったということも考えられる。よほどの愛くるしさを持つ相手でない限り、虫どもに不法侵入されることを歓迎できるような性格はしていないので、防虫対策には結構な予算と労力を費やしている。投資が成功したのであれば、素直に喜んで良いだろう。しかし、近隣の環境が蚊すら住めない状態と化している可能性も浅学な私には否定できず、若干の不安は拭えぬままである。