喋る馬の名はエド。では、喋る鹿の名は?

 病院から帰宅すると、自宅のすぐ隣にある畑に5頭ほどの鹿がいた。

 我が家が所有する畑ではないし、観察してみると作物には口をつけず、端の方の草ばかり食んでいるので、とりあえず敵意の欠片も脳裏に浮かべず、しばらく眺めていた。

 近隣に鹿が出没することは幼い頃から分かっていたし、抜け落ちた角を拾ったこともあれば、姿も何度か目にしている。しかし、3頭を超える集団に遭遇するのは初めてで、ただのレアケースならば良いが、何かしらの環境変化があったのだとすれば少々心配でもある。

 しかし、いくら作物を避けて食事をする賢そうな鹿とはいえ、「どうしてここに来たのですか?」と日本語で尋ねても答えてくれるはずはないので、動物学や環境学の専門家でもない私には、こうしてそれとなく当時の状況を記しておくことしかできない。

 鹿にも人にも憂慮すべき事態が起こっていなければ幸いだが、今年の夏が気候を司る神的な存在がいれば袋叩きにしてやりたいほど馬鹿みたいに暑かったことだけは事実であり、何もできない身であるがゆえに不安だけはじわじわと精神を蝕んでいる気がする。