トウモロコシ畑のスノッブたち

 『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年/監督:フィル・アルデン・ロビンソン)は、知っていると「映画通」と呼ばれるほどの映画だろうか? 公開から30年以上経つため、世代的には馴染みの薄い層も大きくなっているかもしれないが、主演はケヴィン・コスナーであるし、批評的評価や個人的な好みは別としても興業的成功はしっかり収めた映画である。それゆえに、レスリー・ニールセン主演のコメディ映画『裸の銃を持つ逃亡者』(1998年/監督:パット・プロフト)では、この映画のパロディシーンも登場するのだ(そして、トウモロコシ畑繋がりで『北北西に進路を取れ』のパロディシーンへと突入する)。

 メジャーリーグでは、この映画にちなんだイベントも開催されているため、映画をあまり観ない者でも、メジャーリーグのファンなら知っている可能性がある。野球人気の高い日本でも、特に好評を得たはずだ。野球界に例えれば、大谷翔平とまではいかなくとも、クロマティやオマリーくらいの知名度はあるのではないだろうか。

 

「8月、芽室町内のトウモロコシ畑に8人の男たちが並んだ。全員が野球のユニホーム姿。(中略)この写真だけで既視感を覚えた人はかなりの映画通」(十勝毎日新聞 編集余録 2023.9.7)

 

 しかし、私の地元の新聞には、このように書かれている。しかも、ただの「映画通」ではなく「かなりの映画通」とある。もちろん「この程度の映画知識で映画通を気取るな」などとマウントを取るようなスノッブ的態度が見苦しいのも事実だが、そもそも先に映画通だとのたまったのは、上記編集余録の執筆者である(火種を大きくし、延焼させようとしているのは私だが、このような辺境ブログでは大した成果は得られないだろう)。地方紙とはいえ、新聞というメディアに文章を載せる者として、実際の映画通から冷笑されるかもしれないと少しは思わなかったのだろうか。いや、思ったのであれば「かなりの映画通」などとは書かないし、そもそも芽室町での催しを伝えるのが主な内容なのだから、「映画『フィールド・オブ・ドリームス』を模したイベントが~」と書けば良いだけで、それを察する者が映画通か否かは本来どうでも良いのである。

 おそらく、執筆者自身が映画通を自負していなければ、こうは書けまい。しかしながら、トウモロコシ畑と野球のユニホームで『フィールド・オブ・ドリームス』を想起するくらいは、映画通でなくとも出来る可能性は低くないように思う。都市と呼ぶべきか悩む程度の地方都市とはいえ、TSUTAYAやGEOの店舗を探せば、少ないながらもアート系映画や正真正銘のカルト映画だって見つけることはできる。なんだか、色々な意味でむず痒くさせられる文章であった。