春はまだか

 散歩は都会の方がし易い。大都会だと、それはそれで困難だが、秘境と言って差し支えないような田舎は、人通りが少ないどころか建造物すらほとんどなく、老人なら徘徊感が漂うし、若者でもまるで死に場所を探して彷徨い歩いているように見える。

 また、人が少ないということは、万が一倒れても見つけてもらえないということでもある。特にこの北海道は周知のとおり冬は極寒であり、若い者でも何かしらのはずみでぽっくり逝ってしまうことは充分考えられ、そこに雪など降ってしまえば、たとえ人が通ったところでその姿は見えなくなる(街中でさえ、雪に埋もれてしまうと、数日発見されないなんてことは結構あったりする)。

 また、ぽっくり逝かずとも、歩いていれば一時間もかからず、いつ山の熊さんに襲われてもおかしくない山中に到達してしまうような土地なので、熊よけにエノケンの「洒落男」でも大声で歌いながら歩かねばならず、しかしそんな歩き方をしていれば痴呆を疑われても仕方なく、ああやはり田舎の散歩は色々と困難であるなあと、部屋に引きこもっているわけである。まあ、寒いしね。