ビエネッタは美しいが、ちょっと食べにくい

 私がアイスをあまり食べなかったのは、いや、正確に言えば「家族以外の前でアイスを食べなかった」のは、牛乳やチーズといった乳製品全般が大の苦手なのに、なぜアイスは平気なのかと言われるのを避けるためだった。幼稚園や小学校低学年の頃、遠足などで「じゃあ、みんな1個好きなアイスを選んでね」なんて場面があったが、「好きなアイス」ではなく「乳製品色の薄いアイス」を選んだ。大人は食べ物の好き嫌いに批判的な者が多いが、子供だって自分のことは棚にあげて他人の好き嫌いにはうるさいく言うものだ。私にとっての「食い物の怨み」は、食べ物の好き嫌いに対してうるさく言う人への怨みだったりする。今だに食べ物の好き嫌いに対してうるさく言う人が嫌いだ。アレルギーと好き嫌いは別次元の話であるが、他人の好き嫌いに不寛容な人間は、アレルギーに対する理解も低いような印象がある(あくまで印象論だけれど)。

 しかし、家族の前では熱心なアイス愛好者だったのかと言われれば、そういうわけではない。好きなアイスはあったが、様々なアイスの味を楽しみたいという願望は別になく、ホームランバーさえ現物を初めて手にした(手にしたと言っても、購入したわけではなく、文字通り店で手にとって眺めてみただけ)のは、高校卒業後、札幌で初めての一人暮らしをしていた頃だった。

 それでも、なんとなく興味を抱いて購入した『日本懐かしアイス大全』を読んでみると、結構な数の商品を記憶していることに気づく。この本で紹介されているアイスは基本的に昭和のものであり、1986年生まれの私がその商品の誕生を認識できているのは、1988年から1989年までの、おそらく1年程度の間のものだけだが、それでも90年代の半ばくらいまで生産されていたアイスなら「懐かしさ」を感じることができる。買ってもらったわけでもないのに記憶しているのは、CMだったり、スーパーのアイス売場(北海道の僻地出身なので、小学校中学年くらいまでは、コンビニなんて親の車に乗せてもらってすら滅多にお目にかかれなかった)で目にしていたからだろう。

 私よりも親のほうが多くの種類のアイスを食べていたはずだが、みうらじゅんさん的な収集癖が悪化してきた今から思えば、資料的価値も含め、親に頼んでパッケージを洗って保存しておいてもらえばよかった。『日本懐かしアイス大全』の著者であるアイスマン福留さんは、年間1000種類以上のアイスを食し、すべてのパッケージを保存・収集しているらしいけれど、もし機会があればそのコレクションをじっくり拝見させてほしいと思う。『日本懐かし〜』では紹介されなかった、私にとっての懐かしアイス(主に90年代はじめのもの)とも再会できるかもしれない。