月に慈悲深い〈夜の世界〉の女神がいることを願って

 話題になっている前澤社長のお年玉ツイートだが、参加している人は今回の騒ぎに乗じて悪質な詐欺行為を働こうとしている者たちに騙されない自信があるということなのだろうなと考えると、なぜそんな自信を持つことができるのだろうと自信の欠片もなく生きてきた私のような者は何よりもその点を不可思議に思う(実際、すでに偽アカウントのほうをリツイートしてしまっている人を数名見かけた)。100万円という金額を前にして冷静さを失ってしまっているというのならまだわかるのだが、金銭への執着心の強さは私の数少ないそれなりの自信を持てる要素であるにもかかわらず、賞金以上の損害を被ることへの恐怖を前に振り上げかけた右腕を左腕がそっとおさえこみ、へなへなとその場に座り込むほかなかった。自信にあふれた人々の姿は、私には眩しすぎる。地中でおとなしくしているだけでは稼ぐことも恵みを受けることも困難であるが、陽を浴びた瞬間に蒸発してしまう危険性もあるのだからしょうがない。

 さて、今年の『さんタク』でさんまさんが「初デートが自家用ジェットなんて恋愛のドーピングや」と仰っていたけれど、その発言の是非はともかくとして、もし前澤社長からの自家用ジェットデートのお誘いをきっぱり断った女性がいるのだとしたら、たしかにその女性にはかなりの魅力を感じる。仮に元々好きだった人が自家用ジェットデートを断ったことがあると知ったなら、ますます好きになる。ただし、私に好かれたところで別に良いことなどなにもないので、その気はなくとも素直にデートに応じて一、二食分奢ってもらったほうが得ではあるだろう。せめて外面くらいは紳士でいたいので、私は私が好む相手には幸せでいてほしく、私なんぞに好かれることよりも自分自身の幸せを優先していただきたいしそうするべきだと思う、と書いておくことにしよう。

 それでもなお「私は自家用ジェットでのデートよりも、あなたのような人が支持してくれる方を選びます」という御方がいるのだとすれば、それはもう女神さまかなにかであろう。もっとも、そんな人は100万円や自家用ジェットの力を借りずとも多くの支持を集めることが可能だろうから、支持者の中に多少の貧乏神が紛れ込んでいようともさしたる影響はないような気はする。貧乏神はただただ魂を捧げるのみである。陽を浴びても大丈夫な体になる魔法でもかけてくださるのであれば、さらに素敵である。

 ひょっとすれば、女神さまの眼差しや後光には上記の魔法のような効果があるのかもしれないが、まだ陽を浴びることが難しい私には、その御利益を授かる術がない。仕方がないので、「嫌いな奴が前澤さんのお年玉ツイートを批判しつつ実は裏垢でRTしていた挙句、詐欺に引っかかって大損こいて、さらに裏垢で前澤さんのツイートをRTしたこともバレて大恥までかきますように」などと、なおさら運気の下がりそうな願いを書き残すことで、せめてもの腹いせとする。

 

(追記)月に慈悲深い〈夜の世界〉の女神がいるかどうかは知らないけれど、やたら可愛いウサギさんがいらっしゃることは知っています。

 

月は無慈悲な夜の女王 (ハヤカワ文庫 SF 1748)

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百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫JA)

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