『空にかたつむりを見たかい?』 第28回

知悦部小学校同窓会会長 笠井康博   ――知悦部地区小学校と地域を語る

 

 どうも。知悦部で農業をしている笠井康博です。

 あ、そうか。そうだね。知ってるよね。ははは。笑われてるかな、今。

 真面目な感じが出ていい? そう? じゃあ、ちょっと固めにいこうか。

 うちがここで農業をはじめて、もう八十年近くになります。もちろん、僕が八十年やってるわけではありません。そこまでのじいさんじゃないです。ああ、言わなくても分かるか。どうも、固くっていうのも難しいね。意識すると駄目だね。

 僕が生まれる前は、酪農もやっていましたが、現在は畑作専業。小麦、ビート、豆……僕の代からはブロッコリーも始めました。

 同窓会会長として? うーん。これでも、もう六十近いからね。あまり自分が小学生だったころのことは覚えてないんだよね。結構、父親になってからの記憶の方が濃くてね。そんなもんじゃないかな。いや、他の人のことまで分からないけど。

 一番活気があったのは、そりゃ一番人が多い頃なんだろうけど、でも、個人個人の熱気みたいなものでいったら、二十年くらい前あたりじゃないかな。自分が元気だったってだけかもしれないけどね。息子が小学校に通ってた時期でもあるし。結局、自分がよく関わった時期が一番記憶に残るものね。

 あ、バンドやってたんだよ。そんな上手じゃないけどね。うん。僕もメンバーだったんだ。運動会の後にね、結構夜中まで。お祭りだよね。

 これからの知悦部? どうかな。小学校がなくなると、さすがにね。色々、考えていかなきゃいけないよね。まあ、本当は日本の農業の行く末の方が心配なんだけどね。ここは、なんか大丈夫な気がするけどさ。いや、根拠はないよ。

 ドローン? ああ、買ってみたんだけどね、操縦失敗して畑に落ちて壊れちゃったよ。高かったんだけどねえ。

 そうだ。僕が撮った昔のビデオは役に立ってるかい? そう? そりゃ、よかった。

 ここのよくないところ? うーん、なかなか言いにくいことを聞いてくるね。

 どこか別の田舎じゃ、引っ越してきた人に酒を用意させるなんて話があったけど、あれはどうかと思うね。いや、ちょっと前まで似たようなことはあったか。先生の家に押しかけて、飲み明かすっていうのがね。でも、先生に酒を用意させたって話は聞かないな。赴任してきた先生方の家にあがりこんで飲み明かしてコミュニケーションしようとする乱暴さはあったけど、新入りが酒を持ってきて挨拶しろなんて横暴さはなかったと思うよ。

 ああ、これは本当に言いにくいことだけど、ちょっと前までは、飲酒運転をする人が多かったね。悪運の強い人が多いから、たまたま大きな事件や事故にならなかっただけだね。スピードの出し過ぎで事故った人はいたけどね。まあ、でも捕まった奴も何人かいるかな。ただ、そのうちみんな外で飲むのをやめるか、酒そのものをやめるかにしだしてね。大抵は、外で飲むのをやめたんだ。車ごとやめた人もいるね。

 ちょっと心配なのは、今の三十代か四十代くらいの人たちに車好きが多くてね。ほら、たまに結構やかましくエンジンを鳴らしてる人がいるでしょ。たいがい、その世代の奴なんだよねえ。彼らが心配だな。たとえ飲んでなくてもね。

 ひょっとして、知悦部に新しく誰かが引っ越してきたら、さっき言ったように「新参者は酒を持ってこい」なんて言いだす人が出てくるのかな。嫌だなあ、そんなの。来る人なんていないだろうから、分からないけどね。

 別に勝手に来て勝手に住んでほしいね。こっちも何も言わないから、僕らのこともほっておいてくれればいい。ならず者の集落だね。ははは。