『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(17)

 ちょうど、ねりぃが父親の墓に手を合わせていたので、目的の変更に安堵した。傷んだ古い猫の身体から流れ出る黄色い体液を観察して以来、ねりぃはとろけたような玉子料理を口にすることができなくなっていた。寺島軒で昼食をとると言っていたが、完熟しか認めないねりぃには無理だと思った。しかし、今日はそもそも玉子の類を用意していなかったはずなので忠告せずにおいた。

 ねりぃは小学校で働いているため、私は濡れ衣で体育館のボール整理をやらされたことを思い出した。あの日、ヤスヒロは「永田なんてぶん殴りゃいいじゃん」と言ったが、後にフットボール選手となる娘を持つ担任は永田以上に話の通じない相手なので、私はヤスヒロの協力に感謝するだけにしておいた。

 「夢の目覚め」と名乗る宗教団体が校門前で登校してきた児童相手に布教を行った日、給食に出た苦手なチーズを残さず食べさせられたヒロが放課後に倒れ、そのまま息を引き取った。ヒロの死と給食での出来事に因果関係は認められず、担任はいまだ教員であり続け、娘に関するインタビューまで受けていた。小学校が閉校する頃、タッちゃんはすでに誰の目にも見えるようになっていて、ノリは農家を継ぎ、私は詩人と名乗っていた。閉校式でノリから託された南瓜をタッちゃんは担任に手渡した。前日の夜、私はプールに忍び込み怨みを込めて歩いた。ノリは人知れず、野焼きに紛れて自らも火に包まれた。ノリは火のなかでも一切姿勢を崩さなかったが、南瓜を受け取った担任とその娘がどうなったのかは大半の者が察することができた。珍しく我々の側についたマサ君は下手な口笛で「クワイ河マーチ」を吹いた。灰は風に乗って競技場にまで到達し、ノリの肝臓に溜まったガソリンは朝まで燃えていた。

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